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液状化対策は既存住宅でも可能!住みながら施工できる3つの工法
地震による液状化現象は、住宅の傾きや沈下を引き起こし、日常生活に深刻な影響を与えます。「すでに家を建ててしまったから液状化対策は無理」と諦めている方も多いのではないでしょうか。しかし、既存住宅でも適切な工法を選択すれば、住みながら液状化対策を実施することができます。
そこで本記事では、既存住宅において実施可能な液状化対策の主要な3つの工法について、それぞれの特徴や施工方法、メリット・デメリットを詳しく解説します。住宅の安全性を高め、将来の地震に備えるための参考にしていただければ幸いです。
液状化現象とは?既存住宅への影響を理解しよう
液状化対策の工法を検討する前に、まず液状化現象について正しく理解することが重要です。液状化現象は、地震の揺れによって地盤が液体のような状態になることを指します。
液状化が発生する条件
液状化現象は、主に砂質土を含む地盤で発生しやすく、以下の条件が揃うと発生リスクが高まります。
- 砂を多く含む地盤であること
- 地下水位が高い(地表から3メートル以内)こと
- 地盤が緩く締まっていないこと
- 一定以上の強さの地震動が発生すること
通常、砂の粒子は互いに支え合うことで地盤を形成していますが、地震による振動が加わると地下水の圧力が上昇し、砂粒子同士の結びつきが弱まります。その結果、地下水と砂が混ざり合って泥水のような状態になり、地盤の支持力が失われてしまうのです。
既存住宅における液状化被害の実態
液状化によって既存住宅に生じる被害は多岐にわたります。代表的な被害として以下のようなものがあります。
- 建物全体または一部の沈下
- 基礎の傾斜による建物の傾き
- ドアや窓の開閉困難
- 床の傾斜による家具の不安定
- 配管設備の破損
特に東日本大震災では、沿岸部だけでなく内陸部でも広範囲にわたって液状化被害が発生し、多くの住宅が傾いたり沈下したりする被害を受けました。このような被害は、住民の日常生活に大きな支障をきたすだけでなく、建物の資産価値の低下にもつながります。
既存住宅で実施可能な液状化対策の種類
既存住宅における液状化対策は、大きく分けて「地盤を改良して対応する工法」と「建物の基礎で対応する工法」の2つのアプローチがあります。前者は液状化の発生そのものを抑制する工法であり、後者は液状化が発生しても建物への被害を最小限に抑える工法です。
地盤改良による対策工法の特徴
地盤改良による対策は、地盤の強度を高めたり、地下水の挙動をコントロールしたりすることで、液状化の発生を防ぐことを目的としています。既存住宅の場合、建物を保持したまま施工する必要があるため、新築時とは異なる配慮が必要となります。
地盤改良工法の主な種類としては、以下のようなものがあります。
- 薬液注入工法:地盤に薬液を注入して固結させる
- 深層混合処理工法:セメント系固化材と土を混合して改良する
- 浅層混合処理工法:基礎直下を面的に改良する
基礎対応による対策工法の特徴
基礎で対応する工法は、液状化が発生しても建物が大きな被害を受けないようにすることを目的としています。主な工法として以下があります。
- 小口径杭工法:鋼管などの杭を設置して建物を支持する
- べた基礎への改修:基礎全体で荷重を分散させる
ただし、既存住宅の場合、基礎の大規模な改修は困難な場合が多く、地盤改良による対策が主流となっています。
住みながら施工可能な3つの主要工法
ここからは、既存住宅において住みながら施工が可能な3つの主要な液状化対策工法について、詳しく解説していきます。これらの工法は、いずれも居住者の生活への影響を最小限に抑えながら、効果的な液状化対策を実現できる点が特徴です。
1. 薬液注入工法:小規模設備で騒音・振動を抑制
薬液注入工法は、注入管を通じて地盤内に凝固する性質を持った薬液を注入し、地盤の強度や止水性を高める工法です。既存住宅の液状化対策として最も一般的に採用されている工法の一つです。
施工の特徴
薬液注入工法の最大の特徴は、比較的小型の設備で施工が可能な点です。建物の周囲から斜めに削孔して基礎下の地盤に薬液を注入できるため、建物を移動させる必要がありません。また、振動や騒音が少ないため、住宅密集地でも施工が可能です。
薬液の種類と選定
使用される薬液は主に以下のような種類があります。
- 水ガラス系薬液:最も一般的で、環境への影響が少ない
- セメント系薬液:強度が高く、恒久的な効果が期待できる
地盤の土質や地下水位、求められる改良強度などによって、適切な薬液を選定する必要があります。一般的に、住宅の液状化対策にはセメント系の薬液が適しているとされています。
施工上の注意点
薬液注入工法では、以下の点に注意が必要です。
- 薬液の浸透が土質によって異なるため、事前の地盤調査が重要
- 注入圧力の管理を適切に行わないと、周辺地盤に影響を与える可能性がある
- 薬液が十分に浸透しない場合、固化不良を起こすリスクがある
2. 鋼管圧入工法:高い支持力で建物を安定化
鋼管圧入工法(アンダーピニング工法とも呼ばれます)は、基礎下にジャッキを用いて鋼管を圧入し、建物の沈下を防止または修正する工法です。液状化対策としてだけでなく、すでに傾いてしまった建物の修正にも使用されます。
施工方法の詳細
鋼管圧入工法の施工手順は以下の通りです。
- 基礎の一部を掘削し、ジャッキを設置するスペースを確保
- 油圧ジャッキを使用して鋼管を地中に圧入
- 支持層に到達するまで鋼管を継ぎ足しながら圧入を続ける
- 鋼管の反力を利用して建物の水平を調整
工法のメリット
- 確実に支持層まで到達させることができる
- 建物の傾きを同時に修正できる
- 施工後の沈下がほとんど発生しない
考慮すべきデメリット
一般的に、工期は3~6週間程度、工事費用は600~1,000万円程度と言われています。ただし、これらの数値は建物の規模や地盤条件によって大きく異なるため、詳細は専門業者への確認が必要です。また、基礎の掘削が必要なため、薬液注入工法と比較すると作業規模が大きくなる傾向があります。
3. ジャッキアップ併用工法:傾き修正と地盤強化の同時実現
ジャッキアップ併用工法は、建物の傾きを修正しながら、同時に地盤強化も行う複合的な工法です。ポイントジャッキ工法と薬液注入を組み合わせるケースなどがあります。
ポイントジャッキ工法の概要
ポイントジャッキ工法は、基礎の一部を切り欠いて、土台下に爪付きジャッキを挿入し、建物の傾斜を修正する工法です。部分的な傾きや片側のみの沈下に対して有効です。
複合工法のメリット
- 傾き修正と液状化対策を同時に実施できる
- 建物の状況に応じて柔軟な対応が可能
- トータルコストの削減につながる場合がある
施工期間と注意点
一般的に工期は3~5週間程度とされていますが、組み合わせる工法や施工範囲によって変動します。建物を持ち上げた後の基礎との隙間は、アンカーボルトや補強金物で適切に補修する必要があります。
各工法の比較と選定のポイント
3つの主要工法にはそれぞれ特徴があり、建物の状況や地盤条件、予算などを総合的に考慮して選定する必要があります。
工法選定の判断基準
地盤条件による選定
- 砂質土で地下水位が高い場合:薬液注入工法が有効
- 支持層が比較的浅い場合:鋼管圧入工法を検討
- 部分的な沈下の場合:ジャッキアップ併用工法が適切
建物条件による選定
- 敷地に余裕がない場合:薬液注入工法が有利
- すでに傾きが生じている場合:鋼管圧入工法またはジャッキアップ併用工法
- 騒音・振動を避けたい場合:薬液注入工法を優先
コストと効果のバランス
各工法の費用は、一般的に以下のような範囲と言われています。
- 薬液注入工法:比較的低コスト(施工範囲により変動)
- 鋼管圧入工法:高コスト(600~1,000万円程度)
- ポイントジャッキ工法:中程度(200~300万円程度)
ただし、これらの費用は建物の規模、地盤条件、施工範囲などによって大きく変動するため、複数の専門業者から見積もりを取得し、比較検討することが重要です。
施工時の注意点と生活への影響
既存住宅で液状化対策工事を行う際は、居住者の生活への影響を最小限に抑えることが重要です。ここでは、施工時の注意点と生活への影響について説明します。
施工中の生活について
住みながら施工できることが大きなメリットですが、以下のような影響が考えられます。
- 工事車両の出入りによる駐車スペースの制限
- 施工箇所周辺の立ち入り制限
- 工事音(ただし、薬液注入工法は比較的静か)
- 粉じんの発生(養生により最小限に抑制)
施工業者と事前に十分な打ち合わせを行い、工事スケジュールや注意事項を確認しておくことが大切です。
近隣への配慮事項
液状化対策工事は、近隣住民への配慮も欠かせません。
- 工事開始前の近隣への説明と挨拶
- 工事車両の駐車位置への配慮
- 作業時間の厳守(一般的に8時~17時)
- 騒音・振動のモニタリング
特に住宅密集地では、近隣トラブルを避けるためにも、丁寧な対応が求められます。
液状化対策の効果と今後の備え
適切な液状化対策を実施することで、将来の地震に対する備えとなります。最後に、対策の効果と今後の維持管理について解説します。
対策効果の持続性
各工法による液状化対策の効果は、適切に施工されれば長期間持続します。
- 薬液注入工法:薬液の種類により異なるが、セメント系なら半永久的
- 鋼管圧入工法:鋼管の腐食対策が適切なら数十年以上
- ジャッキアップ併用工法:組み合わせる工法により異なる
ただし、地震による新たな地盤変動や経年劣化の可能性もあるため、定期的な点検が推奨されます。
定期的な点検と維持管理
液状化対策実施後も、以下のような点検を行うことが重要です。
- 年1回程度の建物の水平確認
- 基礎周辺の目視点検
- 大地震後の臨時点検
- 異常を発見した場合の専門家への相談
早期に異常を発見することで、被害の拡大を防ぐことができます。
総合的な防災対策の一環として
液状化対策は、総合的な防災対策の重要な要素の一つです。建物の耐震補強や家具の転倒防止対策なども併せて実施することで、より安全な住環境を実現できます。
また、自治体が公開している液状化ハザードマップを確認し、自宅周辺のリスクを把握しておくことも大切です。国土交通省などの公的機関のウェブサイトでは、液状化に関する詳しい情報を確認できます。
まとめ
既存住宅における液状化対策は、決して不可能ではありません。薬液注入工法、鋼管圧入工法、ジャッキアップ併用工法という3つの主要な工法から、建物や地盤の状況に応じて最適な方法を選択することで、住みながら効果的な対策を実施できます。
液状化対策を検討する際は、まず専門業者による地盤調査を実施し、現状を正確に把握することが重要です。その上で、複数の工法を比較検討し、費用対効果や生活への影響を総合的に判断して選定することをお勧めします。
地震はいつ発生するか分かりません。液状化リスクがある地域にお住まいの方は、早めの対策検討が大切です。専門業者への相談を通じて、安全で快適な住環境を守っていきましょう。
詳しい資料は以下よりご確認いただけます。


