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もう諦めない!経営者も労災保険に加入できる特別制度と手続き代行
「経営者は労災保険に入れない」と諦めていませんか?従業員の労災事故は手厚く補償されるのに、自分が事故にあったときは全額自己負担。そんな不安を抱えながら働く経営者の方は多いのではないでしょうか。
実は、国が認めた「特別加入制度」を利用すれば、経営者や役員、フリーランスの方でも労災保険に加入できます。しかも、面倒な手続きは専門家に代行してもらえるため、本業に集中しながら万が一の備えができるのです。
そこで本記事では、労災保険の特別加入制度について、加入条件から手続き方法、代行サービスのメリットまで詳しく解説します。この記事を読めば、経営者の方も労災保険で守られる安心を手に入れる道筋が見えてくるはずです。
労災保険の特別加入制度とは?経営者でも加入できる国の制度
労災保険の特別加入制度について理解するために、まず通常の労災保険との違いから確認していきましょう。
通常の労災保険と特別加入制度の違い
労災保険は、本来、労働者の保護を目的とした制度ですので、事業主、自営業者、家族従事者など労働者ではない者は、保護の対象とはなりません。社長や個人事業主、一人親方などは労働基準法上の「労働者」に該当しないため、労災保険の対象とはなりません。
つまり、通常の労災保険は「雇われている人」を守るための制度であり、「雇っている人」である経営者は対象外となっているのです。
しかし、労働者でない者の中には、業務の実態や災害の発生状況などからみて、労働者に準じて保護することがふさわしい者がいます。中小企業の経営者は、従業員と同じように現場で作業することも多く、労働災害のリスクにさらされています。
そこで、労災保険本来の建前を損なわない範囲で、労災保険の利用を認めようとするのが特別加入制度です。
特別加入制度の4つの種類
労災保険の特別加入制度には、加入できる対象者によって以下の4種類があります。
- 中小事業主等の特別加入(第1種)
中小企業の事業主、役員、家族従事者などが対象 - 一人親方その他の自営業者の特別加入(第2種)
建設業の一人親方、個人タクシー運転手などが対象 - 特定作業従事者の特別加入(第3種)
特定の農作業従事者、家内労働者などが対象 - 海外派遣者の特別加入(第4種)
海外の事業場に派遣される労働者が対象
経営者の方が最も利用するのは「中小事業主等の特別加入(第1種)」です。次章では、この第1種特別加入について詳しく見ていきましょう。
経営者が労災特別加入できる条件と対象者の範囲
経営者が労災保険に特別加入するには、いくつかの条件を満たす必要があります。ここでは、中小事業主等の特別加入(第1種)の詳しい条件を確認していきます。
事業規模による加入条件
中小事業主等とは、1年間に100日以上にわたり労働者を使用している事業主や会社幹部などを指します。事業主とともに事業に従事する家族なども対象範囲です。
加入できる事業規模は業種によって異なります。労働者(従業員)数の上限は業種によって異なります。たとえば金融業・保険業・不動産業・小売業の場合、労働者数が50名までの会社の社長であれば、特別加入の対象です。建設業の場合は300人以下となります。
具体的な業種別の労働者数の上限は以下のとおりです。
- 金融業・保険業・不動産業・小売業:常時50人以下
- 卸売業・サービス業:常時100人以下
- 建設業・製造業・運輸業など:常時300人以下
特別加入できる人の範囲
中小事業主等の特別加入では、以下の人が加入対象となります。
- 会社の代表取締役・社長
- 取締役・役員
- 事業主の家族従事者
- 個人事業主本人
役員も中小企業主とともに労災保険に特別加入することが可能です。重要なのは、代表者が特別加入すると、家族従事者や他の役員も包括的に加入することになる点です。
労働保険事務組合への委託が必須
この制度を利用するには、労働保険事務組合に事務処理を委託することが必要です。労働保険事務組合とは、厚生労働大臣の認可を受けた団体で、中小企業の労働保険事務を代行する組織です。
個人で直接、労働基準監督署に申請することはできません。必ず認可を受けた労働保険事務組合を通じて手続きを行う必要があります。
労災特別加入の手続き方法と必要書類
ここでは、実際に労災保険に特別加入する際の手続きの流れと必要な書類について解説します。
特別加入の手続きの流れ
厚生労働大臣の認可を受けた「労働保険事務組合」を通じ、所轄の労働基準監督署長を経由して労働局長宛に「特別加入申請書(中小事業主等)」を提出します。
具体的な手続きの流れは以下のとおりです。
- 労働保険事務組合を選定
厚生労働省の特別加入団体一覧表から、お近くの事務組合を探します。 - 事務組合への加入手続き
選定した労働保険事務組合に連絡し、加入の相談をします。 - 特別加入申請書の作成
事務組合の指導のもと、必要書類を作成します。 - 労働局への申請
提出先:所轄の労働基準監督署長を経由の上、労働局長 - 承認・加入
労働局長の承認を得ると、申請書提出日の翌日から保険が発効します。
申請時に必要な主な書類
提出書類:特別加入申請書(中小事業主等)が基本となりますが、以下の情報を記載する必要があります。
- 事業の種類・内容
- 労働者数
- 特別加入希望者の氏名・生年月日
- 希望する給付基礎日額
- 業務内容の詳細
加入方法としては、労働者以外で業務に従事している人全員分を事業ごとに一括申請が必要です。
健康診断が必要な場合
特別加入を希望する中小事業主のうち、下表に記載されている「特別加入予定者の業務の種類」欄に応じて、それぞれの従事期間を超えて当該業務を行ったことがある場合には、特別加入の申請を行う際に健康診断を受ける必要があります。
たとえば、粉じん作業を3年以上行っていた場合は「じん肺健康診断」、振動工具を1年以上使用していた場合は「振動障害健康診断」などが必要になります。
手続き代行サービスを利用するメリット
労災保険の特別加入手続きは複雑で、必要書類の作成や申請手続きに時間がかかります。そこで、多くの経営者が手続き代行サービスを利用しています。
代行サービスの主なメリット
1. 手続きの時間と労力を大幅に削減
書類作成から申請まで、すべての手続きを専門家が代行してくれるため、経営者は本業に集中できます。
2. 確実な手続きで安心
労働保険の専門家が手続きを行うため、書類の不備や申請ミスのリスクがありません。
3. 労災事故発生時の対応もサポート
万が一労災事故が発生した場合も、給付申請の手続きをサポートしてもらえます。病院や労働基準監督署への提出書類の作成・届出の別途費用は一切必要ありませんという事務組合もあります。
4. 継続的な管理もお任せ
年度更新や保険料の計算・納付など、継続的な事務処理も代行してもらえます。
社会保険労務士による代行の強み
特に社会保険労務士が運営する労働保険事務組合では、以下のようなメリットがあります。
- 労働法規に精通した専門家によるアドバイス
- 労災以外の労務相談にも対応可能
- 就業規則や雇用契約書などの整備もサポート
初年度無料などの特典も
代行サービスによっては、初年度の手数料が無料になるなどの特典を設けているところもあります。複数の事務組合を比較検討し、自社に最適なサービスを選ぶことが大切です。
労災特別加入の保険料と給付内容
労災保険に特別加入する際に気になるのが、保険料と実際に受けられる給付内容です。ここでは、具体的な金額や補償内容について解説します。
保険料の計算方法
労災保険料は、保険料算定基礎額(給付基礎日額×365日)と保険料率のかけ算によって算出されます。
計算式:年間保険料 = 給付基礎日額 × 365日 × 労災保険率
給付基礎日額とは、労災に遭った場合の補償額などを算定する基となる金額であり、3,500円から25,000円までの16段階から選択可能です。
労災保険率は業種によって異なり、一般的に以下のような範囲となっています。
- 金融・保険・不動産業など:0.25%程度
- 卸売業・小売業・飲食業など:0.35%程度
- 製造業:0.7%程度
- 建設業:1.5%程度
保険料の具体例
たとえば、サービス業(労災保険率0.3%)の経営者が給付基礎日額10,000円を選択した場合:
年間保険料 = 10,000円 × 365日 × 0.3% = 10,950円
月額にすると約913円という計算になります。民間の傷害保険と比較しても、非常にリーズナブルな保険料で手厚い補償を受けられることがわかります。
労災保険で受けられる給付内容
労災保険に特別加入すると、以下のような給付を受けることができます。
1. 療養補償給付
病院の治療費を原則として全額給付。健康保険のような自己負担はありません。
2. 休業補償給付
給付基礎日額の80%を入院4日目以降支給。休業期間中の収入を補償します。
3. 障害補償給付
後遺障害が残った場合、障害の程度に応じて年金または一時金が支給されます。
4. 遺族補償給付
万が一死亡した場合、遺族に対して年金または一時金が支給されます。
5. 葬祭料
葬儀費用として、一定額が支給されます。
民間保険との比較
労災保険の特別加入は、民間の傷害保険と比較して以下のような優位性があります。
- 保険料が業種別の一律料金で、年齢による増額がない
- 治療費の全額補償で自己負担なし
- 休業補償の日数に上限がない
- 保険料は全額経費計上が可能
労災特別加入の注意点と補償範囲
労災保険に特別加入する際は、通常の労働者とは異なる注意点があります。ここでは、特に重要なポイントを解説します。
業務災害として認定される範囲
労働者が労働災害にあった場合には、重大な過失や故意による相殺分を除いて労災保険から保険給付を受けることができます。これに対して特別加入の中小事業主・役員は、限られた範囲でしか労災保険から補償を受けることはできません。
申請書の「業務の内容」欄に記載された労働者の所定労働時間(休憩時間を含む)内に、特別加入申請した事業のためにする行為およびこれに直接附帯する行為を行う場合(事業主の立場で行われる業務を除く)に限り、業務災害として認定されます。
つまり、以下のような場合は補償の対象外となる可能性があります。
- 経営者としての会議や商談中の事故
- 接待ゴルフ中の事故
- 所定労働時間外の単独作業中の事故
通勤災害の取り扱い
通勤災害については、一般の労働者の場合と同様に取り扱われます。つまり、自宅と事業場の間の合理的な経路での事故は補償対象となります。
加入前の疾病は対象外
実際に特別加入をした後であっても、特別加入前に疾病が発症、または加入前の原因により発症したと認められた場合は保険給付を受けられないことがあります。
このため、特定の業務に長期間従事していた場合は、加入時に健康診断を受ける必要があるのです。
補償を確実に受けるためのポイント
労災保険の給付を確実に受けるためには、以下の点に注意しましょう。
- 業務内容を正確に申請する
申請書に記載する業務内容は、実態に即して詳細に記載することが重要です。 - 労働者と同様の作業を行う
経営者としての業務ではなく、労働者と同じような現場作業中の事故が対象となります。 - 事故発生時は速やかに報告
労災事故が発生したら、すぐに労働保険事務組合に連絡し、適切な手続きを行いましょう。
よくある質問と回答
労災保険の特別加入について、経営者の方からよく寄せられる質問にお答えします。
Q1. 個人事業主でも特別加入できますか?
A. はい、加入できます。個人事業主の方も、従業員を雇用していて事業規模の条件を満たせば、中小事業主等の特別加入(第1種)の対象となります。従業員を雇用していない場合でも、業種によっては一人親方等の特別加入(第2種)として加入できる可能性があります。
Q2. 役員全員が加入する必要がありますか?
A. 加入方法としては、労働者以外で業務に従事している人全員分を事業ごとに一括申請が必要です。つまり、代表者が特別加入する場合、原則として他の役員や家族従事者も含めて加入することになります。
Q3. 保険料は経費として計上できますか?
A. はい、労災保険の特別加入保険料は全額経費として計上できます。これは民間の傷害保険と同様の取り扱いとなります。
Q4. 加入後すぐに補償を受けられますか?
A. 労働局長の承認を得た場合、申請書提出日の翌日から保険が発効します。ただし、加入前から存在していた疾病や、加入前の原因による災害は補償対象外となりますので注意が必要です。
Q5. 年齢制限はありますか?
A. 労災保険の特別加入に年齢制限はありません。また、年齢によって保険料が上がることもないため、高齢の経営者でも安心して加入できます。
Q6. 建設業の現場入場で労災加入証明が必要と言われました
A. 近年、建設現場では労災保険加入が入場条件となることが増えています。特別加入していれば、労働保険事務組合から加入証明書を発行してもらえます。携携帯できるカードサイズの加入員証を発行しています。という事務組合もあります。
まとめ:経営者も労災保険で安心を手に入れよう
「経営者だから労災は無理」という固定観念は、もう過去のものです。国が認めた特別加入制度を利用すれば、経営者や役員の方でも労災保険の手厚い補償を受けることができます。
特別加入のポイントをまとめると:
- 中小企業の経営者・役員・家族従事者が加入対象
- 業種により従業員50~300人以下の事業が対象
- 労働保険事務組合への委託が必須
- 年間保険料は1~3万円程度と手頃
- 治療費全額補償、休業補償など充実した給付
- 手続き代行サービスで簡単に加入可能
万が一の事故は、いつ起こるかわかりません。大切なのは、事故が起きる前に備えておくことです。労災保険の特別加入は、経営者の方が安心して事業に専念できる環境を作る第一歩となるでしょう。
手続きが複雑に感じられるかもしれませんが、専門家による代行サービスを利用すれば、スムーズに加入手続きを進められます。まずは、信頼できる労働保険事務組合や社会保険労務士に相談してみることをおすすめします。
詳しい資料は以下よりご確認いただけます。


