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材料試験機の精度が落ちる5つの原因と延命対策【買替不要】
材料試験機は、製品の品質管理や研究開発において重要な役割を果たす設備です。しかし、長年使用していると「測定値がばらつく」「以前と比べて精度が落ちた気がする」といった不安を感じることがあります。精度の低下は、製品の品質保証や研究データの信頼性に直結する深刻な問題です。
多くの場合、精度低下の原因は機器の経年劣化だけでなく、メンテナンス不足や使用環境の変化など、さまざまな要因が複合的に影響しています。重要なのは、これらの原因を正確に把握し、適切な対策を講じることです。
そこで本記事では、材料試験機の精度が落ちる主な5つの原因を詳しく解説し、それぞれに対する具体的な延命対策をご紹介します。高額な買い替えを検討する前に、まずは現在お使いの試験機を最大限活用する方法を探ってみましょう。
材料試験機の精度低下がもたらす影響と早期対策の重要性
材料試験機の精度低下は、単なる測定誤差では済まされない深刻な問題を引き起こす可能性があります。品質管理の現場では、わずかな測定誤差が製品の合否判定を左右し、最悪の場合、不良品の流出や過剰な品質基準による歩留まり低下につながることがあります。
精度低下による具体的なリスク
測定精度が低下した材料試験機を使い続けると、以下のようなリスクが発生します。
まず、品質保証の観点から見ると、顧客への納品後にクレームが発生する可能性が高まります。特に自動車部品や建築材料など、安全性が重視される分野では、わずかな測定誤差が重大な事故につながる恐れがあります。また、ISO認証などの品質マネジメントシステムにおいて、測定機器の精度管理は必須要件となっており、定期的な校正記録がなければ認証の維持が困難になります。
研究開発の現場では、精度の低下したデータに基づいて新製品の設計を行うと、量産段階で想定外の不具合が発生するリスクがあります。開発期間の延長や追加コストの発生により、競争力の低下を招く可能性も否定できません。
早期発見・早期対策のメリット
精度低下の兆候を早期に発見し、適切な対策を講じることで、以下のメリットが得られます。
第一に、大規模な故障を未然に防ぐことができます。初期段階での対処により、部品交換や調整だけで精度を回復できるケースが多く、修理コストを大幅に削減できます。第二に、生産ラインの停止時間を最小限に抑えられます。計画的なメンテナンスにより、突発的な故障による生産停止を回避できます。
さらに、測定データの信頼性を維持することで、品質管理体制への信頼も保たれます。取引先からの監査や認証機関の審査においても、適切な精度管理の記録は高く評価されます。
原因1:機械的な摩耗・劣化による精度低下
材料試験機の精度低下で最も一般的な原因は、機械部品の摩耗や劣化です。試験機は繰り返し荷重をかける装置であるため、可動部分には大きな負荷がかかり続けます。特に、ボールねじ、ガイドレール、軸受けなどの主要部品は、使用頻度に応じて徐々に摩耗していきます。
摩耗が進行しやすい部品と症状
ボールねじは、モーターの回転運動を直線運動に変換する重要な部品です。摩耗が進むと、バックラッシュ(がたつき)が大きくなり、位置決め精度が低下します。症状としては、同じ位置に戻したはずなのに微妙にずれる、速度によって測定値が変わるなどの現象が現れます。
ガイドレールやリニアベアリングの摩耗も、精度低下の大きな要因となります。これらの部品が摩耗すると、クロスヘッドの動きが不安定になり、荷重の偏りや振動が発生します。結果として、測定値のばらつきが大きくなったり、再現性が低下したりします。
グリップ部の摩耗も見逃せません。試験片を確実に保持できなくなると、試験中に滑りが発生し、正確な測定ができなくなります。特に高強度材料の試験では、グリップ部への負荷が大きいため、定期的な点検が必要です。
機械的劣化への対策方法
機械的な摩耗・劣化に対しては、予防保全と適切な部品交換が効果的です。
まず、日常的な清掃と給油を徹底することが重要です。可動部分に付着したゴミや切粉は、摩耗を加速させる原因となります。メーカーが推奨する潤滑油を適切な頻度で給油することで、部品の寿命を大幅に延ばすことができます。
定期的な精度検査により、摩耗の進行度を把握することも大切です。一般的には年1回以上の頻度で、専門業者による精度検査を実施することが推奨されています。検査結果に基づいて、必要な部品の交換時期を計画的に決定できます。
部品交換においては、純正部品の使用が原則ですが、製造中止になっている場合は、同等品での代替や改造による対応も可能です。20年超の実績を持つ専門業者であれば、古い機種でも適切な部品調達や改造提案ができます。
原因2:センサー・測定系統の経年変化
材料試験機の心臓部ともいえるロードセル(荷重センサー)やエクステンソメーター(伸び計)などの測定系統は、経年変化により特性が変化することがあります。これらのセンサーは高精度な電子部品で構成されており、温度変化や湿度、振動などの環境要因により、徐々に出力特性が変化していきます。
センサー劣化の具体的な症状
ロードセルの劣化症状として最も多いのが、ゼロ点のドリフトです。無負荷状態でも微小な出力が発生し、測定開始前のゼロ調整を頻繁に行う必要が生じます。また、直線性の悪化により、低荷重域と高荷重域で誤差の傾向が異なるという現象も見られます。
温度特性の変化も重要な問題です。室温の変化に対してセンサー出力が敏感に反応するようになり、朝と夕方で測定値が異なるといった症状が現れます。特に精密な測定が要求される場合、この温度依存性は深刻な問題となります。
電気的なノイズの影響を受けやすくなることも、経年劣化の特徴です。周辺機器の電源ON/OFFや、工場内の大型設備の稼働により、測定値が不安定になることがあります。
測定系統の精度回復方法
センサーや測定系統の精度低下に対しては、校正と調整が基本的な対策となります。
定期的な校正により、センサーの現在の特性を正確に把握し、補正係数を更新することで、精度を維持できます。校正は、国家標準にトレーサブルな標準器を用いて行う必要があり、一般的には専門の校正機関や認定事業者に依頼します。JCSS(計量法校正事業者登録制度)に登録された事業者による校正証明書は、品質管理システムにおいても高い信頼性を持ちます。
センサーケーブルやコネクタの点検・交換も重要です。経年劣化により絶縁抵抗が低下したケーブルは、ノイズの原因となります。定期的な絶縁抵抗測定により、ケーブルの劣化状態を把握し、必要に応じて交換を行います。
場合によっては、センサー自体の交換が必要になることもあります。ただし、最新のセンサーに交換する際は、既存のシステムとの互換性を確認する必要があります。専門業者による改造により、最新センサーを古い試験機に適合させることも可能です。
原因3:使用環境の変化による影響
材料試験機の設置環境は、測定精度に大きな影響を与えます。工場の移転やレイアウト変更、周辺設備の増設などにより、知らず知らずのうちに試験機の使用環境が変化し、精度低下を引き起こすことがあります。
環境要因が精度に与える影響
温度変化は、試験機の各部品の熱膨張・収縮を引き起こし、測定精度に直接影響します。特に、エアコンの風が直接当たる場所や、窓際で日光が当たる場所では、局所的な温度変化により、フレームの歪みが発生することがあります。理想的には、室温を20±2℃程度に管理することが推奨されています。
振動も重要な環境要因です。近隣にプレス機や射出成形機などの振動を発生する設備が設置されると、その振動が試験機に伝わり、測定値のノイズとなります。特に、低荷重での測定や、クリープ試験のような長時間測定では、わずかな振動でも大きな誤差要因となります。
湿度の影響も無視できません。高湿度環境では、電子部品の絶縁性が低下し、リーク電流によるドリフトが発生しやすくなります。また、機械部品の錆や腐食も進行しやすくなるため、除湿対策が必要です。
環境改善による精度向上策
環境要因による精度低下を改善するには、まず現状の環境条件を正確に把握することから始めます。
温度・湿度の連続記録により、日内変動や季節変動のパターンを把握します。問題がある場合は、空調設備の見直しや、試験機周辺への仕切り設置などの対策を検討します。直接的な風の影響を避けるため、エアコンの吹き出し口にルーバーを設置することも効果的です。
振動対策としては、防振台の設置が有効です。試験機の設置床面の振動レベルを測定し、必要に応じて防振ゴムやエアサスペンション式の防振台を導入します。大型の試験機の場合は、独立基礎の設置も検討する価値があります。
電気的ノイズ対策も重要です。試験機専用の電源回路を設けることで、他の設備からのノイズの影響を低減できます。また、適切な接地処理により、外来ノイズの影響を最小限に抑えることができます。
原因4:不適切な操作・メンテナンス
材料試験機の精度低下は、機器自体の問題だけでなく、日常的な操作方法やメンテナンスの不備が原因となることも多くあります。正しい知識を持たないまま使用を続けると、知らないうちに精度を低下させる要因を作り出している可能性があります。
よくある操作ミスとその影響
試験片の取り付け方法は、測定精度に大きく影響します。グリップへの挿入が浅い、または斜めに取り付けられている場合、試験中に滑りや偏心荷重が発生し、正確な測定ができません。特に、薄板材料や細線材料では、わずかな取り付け不良でも大きな誤差となります。
試験速度の設定ミスも、よく見られる問題です。規格で定められた試験速度から外れると、材料の変形挙動が変化し、測定値に影響を与えます。例えば、プラスチック材料では、試験速度が速すぎると見かけの強度が高くなる傾向があります。
校正後の設定値の入力ミスや、単位の取り違えなども、重大な測定誤差の原因となります。新しい担当者が着任した際や、複数の試験機を使い分けている場合に、このような人為的ミスが発生しやすくなります。
正しいメンテナンス方法
適切なメンテナンスは、試験機の精度を長期間維持するために不可欠です。
日常点検では、可動部の動作確認、異音の有無、グリップ部の摩耗状態などを確認します。特に、試験前の動作確認は重要で、無負荷での往復動作により、スムーズな動きを確認します。異常を感じた場合は、すぐに詳細な点検を行うことが大切です。
定期的な清掃も精度維持に欠かせません。試験片の破片や潤滑油の飛散により、光学式エンコーダーやリミットスイッチが汚れると、位置検出精度が低下します。適切な清掃方法と頻度は、メーカーの取扱説明書に従うことが基本です。
潤滑管理も重要なメンテナンス項目です。指定された潤滑油を適切な頻度で給油することで、機械部品の摩耗を最小限に抑えられます。ただし、過剰な給油は逆効果となることもあるため、適量を守ることが大切です。
原因5:制御システム・ソフトウェアの問題
現代の材料試験機は、高度な電子制御システムとソフトウェアにより動作しています。これらのシステムに問題が発生すると、機械的には正常でも、測定精度が低下することがあります。特に、10年以上使用している試験機では、制御系の経年劣化が顕在化してくることがあります。
制御系の劣化症状
制御基板上の電解コンデンサーは、経年により容量が減少し、電源の安定性が低下します。その結果、測定値にノイズが混入したり、動作が不安定になったりすることがあります。症状としては、電源投入直後は正常だが、時間経過とともに誤差が大きくなるといった現象が見られます。
ソフトウェアの不具合も、精度低下の原因となることがあります。長年の使用により、設定ファイルが破損したり、キャリブレーションデータが消失したりすることがあります。また、OSのアップデートとの互換性問題により、正常に動作しなくなることもあります。
通信系統の問題も見逃せません。試験機とPCを接続するケーブルやインターフェースボードの劣化により、データ転送エラーが発生し、測定値が正しく記録されないことがあります。
システムアップグレードによる改善
制御システムの問題に対しては、部分的な改修やアップグレードが効果的です。
電子部品の交換では、特に電解コンデンサーの定期交換が重要です。一般的に、電解コンデンサーの寿命は10年程度とされており、予防的に交換することで、突発的な故障を防げます。同時に、電源部の点検・調整を行うことで、システム全体の安定性が向上します。
ソフトウェアのアップデートや再インストールにより、多くの問題が解決することがあります。ただし、古いシステムでは、最新のソフトウェアが対応していない場合もあるため、専門業者による互換性の確認が必要です。場合によっては、制御システム全体を最新のものに更新することで、操作性と精度の両方が大幅に向上することもあります。
データ取得システムの見直しも検討する価値があります。アナログ出力をデジタル変換する際の分解能を向上させたり、サンプリング周波数を最適化したりすることで、測定精度が向上します。
精度低下を防ぐ予防保全のポイント
材料試験機の精度を長期間維持するためには、問題が発生してから対処するのではなく、予防的な保全活動が重要です。計画的な予防保全により、突発的な故障を防ぎ、常に高い精度を維持することができます。
効果的な予防保全プログラム
予防保全プログラムの基本は、定期的な点検と記録です。日常点検、月次点検、年次点検といった階層的な点検体制を構築し、それぞれの点検項目を明確にすることが大切です。
日常点検では、始業前の動作確認と外観チェックを行います。異音、異臭、異常振動などの兆候を早期に発見することで、大きな故障を防げます。点検結果は必ず記録し、傾向管理を行うことで、劣化の進行を把握できます。
定期校正は、予防保全の中核となる活動です。一般的には年1回以上の頻度で実施することが推奨されていますが、使用頻度や要求精度に応じて、より短い周期での実施が必要な場合もあります。校正結果の推移を管理することで、部品交換時期の予測も可能になります。
長期使用のための改造・アップグレード
古い試験機でも、適切な改造やアップグレードにより、最新機種に劣らない性能を発揮させることができます。
測定系のデジタル化は、特に効果的な改造です。アナログ式の指示計や記録計を、デジタル表示器やPCベースのデータ収集システムに更新することで、読み取り誤差を排除し、データ管理も容易になります。
安全装置の追加や更新も重要です。最新の安全規格に適合するよう、非常停止装置やインターロック機構を追加することで、作業者の安全を確保しながら、安心して使用を継続できます。
自動化機能の追加により、操作ミスを減らし、測定の再現性を向上させることも可能です。例えば、試験条件の自動設定機能や、合否判定の自動化などにより、人為的誤差を最小限に抑えられます。
専門業者による診断・対策の重要性
材料試験機の精度低下に対して、自社での対応には限界があります。特に、複合的な要因が絡み合っている場合や、高度な技術的判断が必要な場合は、専門業者による診断と対策が不可欠です。
専門業者に依頼するメリット
専門業者は、豊富な経験と専門知識により、精度低下の真の原因を的確に診断できます。表面的な症状だけでなく、根本原因を特定することで、効果的な対策を提案できます。
また、各メーカーの機種特性を熟知しているため、機種固有の問題にも適切に対応できます。製造中止となった古い機種でも、代替部品の調達や改造による対応が可能です。20年超の実績を持つ業者であれば、過去の対応事例から最適な解決策を提示できます。
定期的な保守契約を結ぶことで、計画的な予防保全が可能になります。突発的な故障による生産停止リスクを最小限に抑え、安定した品質管理体制を維持できます。
費用対効果の高い延命対策
新規購入と比較して、既存設備の延命対策は大幅なコスト削減が可能です。一般的に、新規購入費用の30~50%程度で、性能を回復・向上させることができます。
部分的な改造により、必要な機能だけを追加・更新することも可能です。例えば、測定系だけを最新のものに更新し、機械部分は既存のものを活用するといった柔軟な対応により、投資効率を最大化できます。
さらに、段階的な改造計画により、予算に応じた対応も可能です。緊急性の高い部分から順次改造を行い、数年かけて全体を更新していくといったアプローチも検討できます。
まとめ:試験機の精度を維持し、長期使用を実現するために
材料試験機の精度低下は、機械的摩耗、センサーの経年変化、使用環境、操作・メンテナンス、制御システムなど、さまざまな要因が複合的に作用して発生します。これらの原因を正しく理解し、適切な対策を講じることで、高額な買い替えをすることなく、精度を回復・維持することが可能です。
重要なのは、日常的な予防保全活動と、専門業者による定期的な診断・校正です。早期に問題を発見し、適切な対策を実施することで、試験機の寿命を大幅に延ばすことができます。また、必要に応じて部分的な改造やアップグレードを行うことで、最新機種に劣らない性能を発揮させることも可能です。
既存設備を最大限活用することは、コスト削減だけでなく、環境負荷の低減にもつながります。実績を持つ専門業者のサポートを受けながら、計画的な保全活動を実施することで、材料試験機の精度と信頼性を長期間維持していくことができるでしょう。
詳しい資料は以下よりご確認いただけます。

