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ハラスメント防止義務化の対応ができていない中小企業が0円で対策する方法
ハラスメント防止対策の義務化が中小企業にも適用されてから時間が経過していますが、「まだ何も対応できていない」「何から始めればよいかわからない」という声が多く聞かれます。実は2022年4月、中小企業を含む全企業において「パワーハラスメント防止措置」が義務化されました 。しかし、人手不足や予算の制約から、多くの中小企業が対応に苦慮しているのが現実です。
そこで本記事では、ハラスメント防止対策が義務化されたにもかかわらず、まだ対応できていない中小企業が、費用負担なしで対策を進める方法について詳しく解説します。特に東京都の奨励金制度を活用することで、専門家のサポートを受けながら、企業負担ゼロでハラスメント対策を実施できる具体的な方法をご紹介します。
ハラスメント防止対策の義務化とは
ハラスメント防止対策について理解を深めるため、まずは法改正の内容と、企業に求められる対応について確認していきましょう。
2022年4月から中小企業も義務化対象に
2020年6月に先行して大企業を対象として施行された「労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」が、2022年4月からは中小企業も含めて完全義務化される ことになりました。これにより、規模を問わずすべての事業主にハラスメント防止措置の実施が義務付けられています。
なお、中小企業の定義は以下のとおりです。
- 小売業:資本金5,000万円以下または従業員50人以下
- サービス業:資本金5,000万円以下または従業員100人以下
- 卸売業:資本金1億円以下または従業員100人以下
- その他の業種:資本金3億円以下または従業員300人以下
パワーハラスメントの定義と3つの要素
職場におけるパワーハラスメントは、以下の3つの要素をすべて満たすものと定義されています。
- 優越的な関係を背景とした言動:職務上の地位が上位の者による言動や、業務上必要な知識を持つ者の協力なしには業務遂行が困難な場合の言動など
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの:明らかに業務上の必要性がない、または態様が相当でない言動
- 労働者の就業環境が害されるもの:労働者が身体的・精神的苦痛を受け、能力発揮に重大な悪影響が生じること
重要なのは、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、該当しません という点です。つまり、通常の指導や注意はパワーハラスメントには当たらないということです。
中小企業が対応すべき4つの防止措置
ハラスメント防止法では、事業主に対して具体的な防止措置の実施を義務付けています。中小企業が対応しなければならない措置について詳しく見ていきましょう。
1. 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
まず第一に、職場におけるハラスメントを許さないという事業主の方針を明確にし、全従業員に周知する必要があります。具体的には以下のような取り組みが求められます。
- 就業規則にハラスメント禁止の方針を明記する
- ハラスメントを行った者に対する懲戒規定を定める
- 社内報やパンフレットで方針を周知する
- ハラスメントに関する研修を実施する
2. 相談に応じ、適切に対応するための体制整備
従業員からの相談に対応できる窓口を設置し、適切に対応する体制を整える必要があります。社内に相談窓口を設置するのも良いのですが、社内で対応するとなるとやはり加害者側の耳に入ってしまうのではないかといった不安は拭いきれません。より安心して相談できる窓口を設置するためには、外部の専門家に委託する方法も考えられます 。
相談窓口では、以下の点に配慮することが重要です。
- 相談者のプライバシーを保護する
- 相談したことで不利益な取扱いを受けないことを明確にする
- ハラスメントに該当するか微妙な場合でも広く相談に応じる
3. 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
実際にハラスメントが発生した場合の対応も重要です。以下の手順で対応する必要があります。
- 事実関係を迅速かつ正確に確認する
- 被害者に対する配慮措置を適正に行う
- 行為者に対する措置を適正に行う
- 再発防止に向けた措置を講じる
4. 併せて講ずべき措置
上記の措置と併せて、以下の点についても対応が必要です。
- 相談者・行為者等のプライバシー保護
- 相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止
- マニュアルの作成と担当者への研修実施
対応できていない企業のリスクと課題
ハラスメント防止対策が義務化されているにもかかわらず、まだ対応できていない企業は大きなリスクを抱えています。
行政指導と企業名公表のリスク
仮にパワハラ防止法に違反したとしても、罰則はありません。しかし、パワハラが発生した企業には、行政から助言・指導、または勧告が行われます。また、勧告を受けたにも関わらず従わなかった場合は企業名が公表できると定められている ため、企業イメージの大幅な低下は避けられません。
さらに、企業がパワハラ防止法に違反した場合、2024年7月時点では罰則は設けられていませんが、厚生労働大臣が必要だと認めた場合には、事業主に対して助言、指導または勧告が行われます 。
訴訟リスクと損害賠償
パワハラ防止法でパワハラの定義や防止の義務が明確化されたことで、パワハラの被害者が損害賠償請求訴訟を提起するケースが増えるとも考えられます 。実際に、企業が適切な対応を怠った場合、多額の損害賠償を命じられる可能性があります。
人材の流出と生産性の低下
ハラスメントが放置されている職場では、以下のような問題が発生します。
- 優秀な人材の離職が増加する
- 従業員のメンタルヘルス不調が増える
- 職場の雰囲気が悪化し、生産性が低下する
- 採用活動にも悪影響が出る
なぜ中小企業は対応が遅れているのか
多くの中小企業がハラスメント防止対策に苦慮している理由として、以下のような課題が挙げられます。
専門知識の不足
ハラスメントの定義や対応方法は複雑で、専門的な知識が必要です。どこまでが適正な指導で、どこからがハラスメントになるのか、判断が難しいケースも多く存在します。
人的リソースの不足
中小企業では人事担当者が他の業務と兼務していることが多く、ハラスメント対策に十分な時間を割けないのが現状です。相談窓口を設置しても、対応する人材が不足しているケースも見られます。
予算の制約
外部の専門家に相談窓口を委託したり、研修を実施したりするには費用がかかります。多くの中小企業にとって、これらの費用負担は大きな課題となっています。
東京都の奨励金を活用した0円対策の方法
こうした中小企業の課題を解決する方法として注目されているのが、東京都の奨励金制度です。この制度を活用することで、企業負担ゼロでハラスメント対策を実施することが可能になります。
東京都カスタマーハラスメント防止条例と奨励金制度
東京都は令和7年4月1日に施行される「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」に伴い企業の対策強化を促進するため、カスハラ対応マニュアルを作成し、録音機器などの整備を行った中小企業に対し、40万円の奨励金を支給する方針です 。
この奨励金は、カスタマーハラスメント対策だけでなく、職場内のハラスメント対策全般に活用できる可能性があります。会員企業及びその従業員向けに防止対策の体制を整備した場合に、奨励金を支給します という方針が示されており、包括的なハラスメント対策が支援対象となっています。
奨励金の支給要件
支給対象となるのは、都内の従業員数300人以下の中小企業で、以下の取り組みを行った企業です。
- カスハラ防止対策に関する手引きの提出
- 以下のうち1つの取組
(1) 録音・録画環境の整備
(2) AIを活用したシステム等の導入
(3) 外部人材の活用
つまり、マニュアルを作成し、具体的な対策を1つ以上実施すれば、40万円の奨励金を受給できる仕組みになっています。
申請開始時期と準備
募集開始は令和7年6月を予定しています 。奨励金の申請受付は2025年6月から開始予定となっています。申請には上限件数(3か年で10,000件)が設けられる見込みのため、早めの情報収集と準備が重要です 。
専門家サポートを活用した実践的な対策方法
奨励金を活用してハラスメント対策を進める場合、専門家のサポートを受けることで、より効果的な対策が可能になります。
社労士による就業規則の整備
社会保険労務士は、労働法規に精通した専門家です。ハラスメント防止に関する規定を就業規則に適切に盛り込み、懲戒規定の整備なども行います。一般的に、就業規則の改定には数十万円の費用がかかりますが、奨励金を活用すれば実質無料で対応できます。
相談窓口の外部委託
外部の専門機関に相談窓口を委託することで、以下のメリットがあります。
- 相談者のプライバシーが確実に保護される
- 専門的な知識を持つカウンセラーが対応する
- 中立的な立場で公正な対応ができる
- 24時間対応も可能になる
録音・録画機器の導入
録音・録画機器の設置によりカスハラ行為の証拠保全ができるほか、「録音・録画しています」という表示だけでカスハラ抑止効果が期待できます 。これは顧客対応だけでなく、職場内のハラスメント防止にも効果的です。
研修・教育プログラムの実施
専門家による研修を実施することで、以下の効果が期待できます。
- 管理職のハラスメントに対する理解が深まる
- 何がハラスメントに当たるのか、具体例で学べる
- 相談を受けた際の適切な対応方法が身につく
- 組織全体でハラスメント防止の意識が高まる
GビズIDの取得から始める具体的なステップ
奨励金申請に向けて、まず必要となるのがGビズIDの取得です。
GビズIDとは
GビズIDは、一つのアカウントで複数の行政サービスにアクセスできる認証システムです。奨励金の申請には、このGビズIDが必須となります。
取得手順
- GビズIDのウェブサイトにアクセス
- 必要事項を入力して申請
- 印鑑証明書を添付して郵送
- 審査完了後、IDが発行される(通常2週間程度)
なお、取得に不安がある場合は、専門家による無料サポートを受けることも可能です。
奨励金申請までの準備事項
GビズIDを取得したら、以下の準備を進めていきましょう。
- 現在の就業規則の確認
- ハラスメントに関する現状の把握
- 必要な対策の検討
- 専門家への相談
今すぐ始められるハラスメント対策
奨励金の申請開始まで待つ必要はありません。今すぐできる対策から始めることが重要です。
社内の現状把握
まずは以下の点をチェックしてみましょう。
- 就業規則にハラスメント防止規定があるか
- 相談窓口は設置されているか
- 従業員への周知は行われているか
- 管理職の理解度はどの程度か
簡易的な相談体制の構築
本格的な相談窓口を設置する前に、以下のような対応から始めることができます。
- 人事担当者を相談窓口として指定する
- 相談用のメールアドレスを設定する
- 相談があった場合の対応フローを決める
啓発活動の開始
費用をかけずにできる啓発活動として、以下のような取り組みがあります。
- 朝礼でハラスメント防止について話す
- 厚生労働省の無料パンフレットを配布する
- 社内掲示板にポスターを掲示する
よくある質問と回答
Q1. 東京都以外の企業でも利用できますか?
残念ながら、この奨励金制度は東京都内に所在する中小企業が対象となります。ただし、他の自治体でも類似の支援制度がある場合があるので、各都道府県の労働局に確認することをお勧めします。
Q2. すでに一部対策を始めていても申請できますか?
詳細な要件は正式発表を待つ必要がありますが、一般的には条例施行日以降に実施した対策が対象となる見込みです。ただし、既存の取り組みを拡充する形での申請も可能な場合があります。
Q3. 奨励金を受給した後の義務はありますか?
奨励金を受給した企業は、実施した対策を継続する必要があります。また、実施状況について報告を求められる場合もあります。詳細は申請時に確認が必要です。
Q4. パワハラ以外のハラスメントも対象になりますか?
はい、職場におけるハラスメントを防止するためには、一時的ではなく継続的な取り組みが重要です 。セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントなど、包括的な対策が推奨されています。
Q5. 専門家への相談はどこでできますか?
社会保険労務士会や産業保健総合支援センターなどで相談を受け付けています。また、奨励金を活用した総合的なサポートを提供する専門業者も存在します。
まとめ:今こそハラスメント対策を始めるとき
ハラスメント防止対策の義務化から時間が経過し、「まだ何も対応できていない」という焦りを感じている中小企業経営者の方も多いことでしょう。しかし、東京都の奨励金制度を活用すれば、費用負担なしで本格的な対策を実施することが可能です。
重要なのは、完璧を求めすぎず、できることから始めることです。GビズIDの取得、現状把握、簡易的な相談体制の構築など、今すぐ始められることはたくさんあります。
ハラスメント対策は、単なる法令遵守のためだけではありません。従業員が安心して働ける職場環境を整えることは、企業の生産性向上や人材確保にも直結します。この機会に、ぜひ一歩を踏み出してみてください。
詳しい資料は以下よりご確認いただけます。

