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会社分割で本当に負債を残せる?第二会社方式の仕組みと成功条件
債務に苦しむ経営者の方々から「黒字部門はあるのに、負債のせいで会社全体が危機に瀕している」という悲痛な声をよく耳にします。実は、このような状況でも事業を継続できる方法があることをご存知でしょうか。それが「会社分割」を活用した事業再生手法です。
そこで本記事では、会社分割によって負債を旧会社に残し、収益性の高い事業だけで再出発する方法について詳しく解説します。特に「第二会社方式」と呼ばれる手法の仕組みから、実際に活用する際の条件まで、経営者の方が知っておくべきポイントを分かりやすくお伝えします。
会社分割とは?負債を残すことは本当に可能なのか
会社分割とは、企業が保有する事業の全部または一部を切り離して、他の会社に移転させる組織再編手法のことです。この手法を活用することで、収益性の高い事業と負債を分離し、健全な形で事業を継続することが可能になります。
会社分割の基本的な仕組み
会社分割には大きく分けて2つの種類があります。
新設分割:新たに設立する会社に事業を移転する方法
吸収分割:既存の会社に事業を移転する方法
いずれの方法でも、事業を切り離す側を「分割会社」、事業を引き受ける側を「承継会社」と呼びます。重要なのは、どの資産や負債を移転するかを選択できる点です。
負債を残すことの法的根拠
現行会社法への改正により、上記事前開示書類に修正が加えられ、分割会社は「債務履行に関する事項」を開示すれば良いこととなりました。債務履行が見込めないことを開示しても問題ないため、分割会社が債務超過に陥る会社分割は認められます。
つまり、法律上、会社分割によって負債を旧会社に残すことは完全に合法的な手続きとなっています。ただし、債権者への適切な開示と手続きが必要になる点には注意が必要です。
第二会社方式による事業再生の仕組み
第二会社方式とは、財務状況が悪化した会社から収益性のある事業を切り出し、新設または既存の別会社に移転させる事業再生手法です。この方式を活用することで、重い負債から解放された状態で事業を再スタートできます。
第二会社方式の具体的な流れ
第二会社方式は以下のような流れで進めていきます。
- 現状分析:黒字部門と赤字部門、資産と負債の詳細な把握
- 新会社の設立:収益性の高い事業を引き継ぐ新会社を設立
- 事業の移転:会社分割により、黒字部門や優良資産を新会社へ移転
- 旧会社の処理:負債が残った旧会社は特別清算などで整理
移転できる資産と残せる負債
第二会社方式では、以下のような資産を新会社に移転できます。
- 収益性の高い事業部門
- 取引先との契約関係
- 技術やノウハウ
- 優秀な人材
- 事業に必要な設備や在庫
一方で、以下のような負債は旧会社に残すことが可能です。
- 金融機関からの借入金
- 滞納している税金
- 買掛金などの営業債務
- 保証債務
会社分割で負債を残す際の法的要件と手続き
会社分割によって負債を残すことは法的に認められていますが、適切な手続きを踏まなければなりません。ここでは、必要な要件と手続きについて解説します。
債権者保護手続きの重要性
会社分割では、原則債権者に対して保護手続きを実行する必要があります。債権者から異議申し立てがなされた際には、弁済や担保提供を行わなくてはいけません。
債権者保護手続きには以下のような内容が含まれます。
- 官報による公告
- 知れている債権者への個別催告
- 異議申立期間の設定(1か月以上)
- 異議があった場合の弁済または担保提供
株主総会での特別決議
会社分割を実行するには、原則として株主総会の特別決議が必要です。特別決議とは、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な決議のことです。
労働者との協議
会社分割は、事業譲渡や株式譲渡などは異なり、事業を売買することが目的ではなく、組織を再編する手段として利用されることが一般的です。 そのため、労働者の雇用にも大きな影響を与えます。労働契約承継法に基づき、適切な労働者との協議が必要です。
第二会社方式が成功するための条件
第二会社方式による事業再生を成功させるには、いくつかの重要な条件があります。これらの条件を満たしているかどうかが、再建の成否を左右します。
1. 明確に黒字化できる事業部門の存在
最も重要な条件は、独立して採算が取れる事業部門が存在することです。単に「黒字部門がある」というだけでなく、その事業が以下の条件を満たしている必要があります。
- 独立した事業として成立する完結性がある
- 安定的な収益が見込める
- 将来的な成長性がある
- 新会社での運営に必要な経営資源が揃っている
2. 債権者の理解と協力
第二会社方式を実行するには、債権者(特に金融機関)の理解が不可欠です。金融機関からみても、不良債権処理ができるとともに、新しく設立した会社は負債を引き継がず、採算性が高い部分に特化することになるため、今後も良好な取引先を確保できることになります。
3. 適切な事業価値の評価
移転する事業の価値を適正に評価することも重要です。過大評価や過小評価は、後々のトラブルの原因となります。一般的には、以下のような観点から評価を行います。
- 将来キャッシュフローの現在価値
- 類似企業との比較
- 純資産価値
4. 十分な運転資金の確保
新会社は負債から解放されるとはいえ、事業を軌道に乗せるまでの運転資金が必要です。一般的に、少なくとも3~6か月分の運転資金を確保しておくことが推奨されます。
会社分割による負債処理の注意点とリスク
会社分割は有効な事業再生手法ですが、適切に実行しないと思わぬリスクに直面する可能性があります。ここでは、特に注意すべきポイントを解説します。
濫用的会社分割のリスク
濫用的会社分割に対して、債権者はさまざまな対策を施すことが可能です。例えば、会社法第429条に基づいて、取締役に対して責任を追及し、損害賠償を受け取れます。また、詐害行為取消権を行使し、会社分割の効力を取り消すことも可能です。
濫用的会社分割とみなされるケースには以下のようなものがあります。
- 債権者を害することを目的とした会社分割
- 適正な対価なしに優良資産だけを移転する行為
- 債権者への通知や公告を怠った場合
税務上の取り扱い
会社分割には税務上の問題も伴います。適格要件を満たさない場合、多額の税負担が発生する可能性があります。主な税務リスクには以下のようなものがあります。
- 移転資産の含み益に対する課税
- 繰越欠損金の引継ぎ制限
- 消費税の課税関係
連帯保証の問題
多くの場合は資金を借り受ける際に経営者が連帯保証人になります。中小企業は財務状況が不透明なこともあるため、債権者の安全性を確保するために連帯保証を要求するのが一般的です。
会社分割を行っても、経営者個人の連帯保証は自動的に消滅しません。この点については、債権者との個別交渉が必要になります。
第二会社方式と他の事業再生手法との比較
事業再生には第二会社方式以外にもさまざまな手法があります。それぞれの特徴を理解し、自社に最適な方法を選択することが重要です。
民事再生法との比較
民事再生法は裁判所の監督下で事業を再建する法的整理手続きです。第二会社方式との主な違いは以下の通りです。
| 項目 | 第二会社方式 | 民事再生法 |
|---|---|---|
| 手続きの公開性 | 非公開で実施可能 | 裁判所での公開手続き |
| 信用への影響 | 新会社は影響なし | 大きな信用毀損 |
| 実施期間 | 比較的短期間 | 6か月~1年程度 |
| 費用 | 相対的に低い | 裁判所費用等で高額 |
私的整理との比較
私的整理は、裁判所を介さずに債権者と直接交渉して債務を整理する方法です。第二会社方式も広義の私的整理に含まれますが、以下のような違いがあります。
- 債務カットの必要性:私的整理では債権者に債務カットを要請するが、第二会社方式では新会社が債務を引き継がない
- 事業の継続性:第二会社方式の方が事業の継続性を保ちやすい
- 実現可能性:債権者全員の同意が必要な私的整理に比べ、第二会社方式は実現しやすい
成功する第二会社方式の実施ステップ
第二会社方式を成功させるには、綿密な計画と適切な実行が不可欠です。ここでは、実施の具体的なステップを解説します。
ステップ1:現状分析と事業評価
まず、会社の現状を正確に把握することから始めます。
- 事業部門別の収益性分析
- 資産・負債の詳細な棚卸し
- キャッシュフローの現状把握
- 取引先との契約関係の確認
- 従業員の雇用状況の整理
ステップ2:スキームの設計
現状分析を基に、最適なスキームを設計します。
- 新会社に移転する事業・資産の選定
- 旧会社に残す負債の整理
- 必要な資金の算定
- 実施スケジュールの策定
ステップ3:関係者との調整
スキームが固まったら、関係者との調整を開始します。
- 主要債権者(金融機関)への説明と協力要請
- 従業員への説明と理解の獲得
- 重要取引先への事前説明
- 株主への説明と承認の取得
ステップ4:実行と事後処理
すべての準備が整ったら、計画を実行に移します。
- 新会社の設立登記
- 会社分割の実施
- 事業・資産の移転手続き
- 旧会社の清算手続き
- 新会社での事業開始
第二会社方式に関するよくある質問
第二会社方式について、経営者の方からよく寄せられる質問にお答えします。
Q1:第二会社方式を実施できる会社の条件は?
明確な基準はありませんが、一般的には以下の条件を満たしている必要があります。
- 独立して収益を上げられる事業部門がある
- その事業部門の収益力が債務返済能力を上回っている
- 事業を分離することが技術的に可能である
医療法人など、法律上の制約がある業種では実施できない場合もあるため、事前の確認が必要です。
Q2:債権者の同意は必ず必要ですか?
法的には、適切な債権者保護手続きを踏めば、個別の同意は必須ではありません。しかし、実務上は主要債権者、特に金融機関の理解と協力を得ることが成功の鍵となります。
Q3:従業員の雇用はどうなりますか?
負債や契約、社員を譲渡する際は、事業譲渡の場合では、個別に同意を得なければなりません。これに対し、会社分割では、個別の保護手続を設けている代わり、個別の同意が不要な包括承継を行うことが可能となっています。
つまり、会社分割では従業員の雇用契約も原則として新会社に承継されます。ただし、労働契約承継法に基づく適切な手続きが必要です。
Q4:実施にかかる期間はどれくらいですか?
ケースバイケースですが、準備から実行まで一般的に3~6か月程度かかります。ただし、関係者との調整や債権者の理解を得るのに時間がかかる場合は、さらに期間が必要になることもあります。
Q5:費用はどれくらいかかりますか?
規模や複雑さによって大きく異なりますが、一般的には以下のような費用が発生します。
- 専門家(弁護士、会計士等)への報酬
- 新会社設立の登記費用
- 会社分割の登記費用
- 各種評価費用
具体的な金額は個別の事情により異なるため、専門家に相談することをお勧めします。
まとめ:第二会社方式で事業再生を成功させるために
会社分割を活用した第二会社方式は、債務に苦しむ企業が事業を継続し、再生を図るための有効な手段です。黒字部門や優良資産を新会社に移転し、負債を旧会社に残すことで、健全な形で事業を再スタートできます。
ただし、成功させるためには以下の点が重要です。
- 適切な法的手続きの遵守
- 債権者との誠実な協議
- 従業員への配慮
- 専門家のサポート活用
特に、「現場感」を持った専門家のサポートは欠かせません。机上の理論だけでなく、実際の経験に基づいたアドバイスが、第二会社方式の成功確率を大きく高めます。
債務の重圧に押しつぶされそうになっている経営者の方も、まだ巻き返せる可能性があります。清算してすべてを失う前に、第二会社方式による事業再生を検討してみてはいかがでしょうか。
詳しい資料は以下よりご確認いただけます。

