「特定技能で製造業の外国人を採用したいけど、手続きが複雑すぎて何から始めればいいかわからない」「書類の準備や在留資格申請でミスをして採用が遅れてしまわないか不安」――そんな悩みを抱える製造業の経営者・人事担当者は多いはずです。本記事では、特定技能の基礎から採用手続きの全ステップ、費用相場、よくある失敗例まで徹底的に解説します。

特定技能とは、2019年4月に施行された「出入国管理及び難民認定法」の改正によって新設された在留資格です。少子高齢化による深刻な人手不足が製造業をはじめとする産業全体を直撃する中、一定の専門性・技能を持つ外国人材を即戦力として受け入れるために創設されました。従来の「技能実習」とは異なり、あくまでも「労働力の確保」を正面から目的とした制度である点が大きな特徴です。
厚生労働省の調査によると、製造業における2023年度の人手不足率は約30%に達しており、中小製造業では「採用したくても応募がゼロ」という企業が続出しています。特定技能はこうした構造的課題に対する政策的な解決策として位置づけられています。
特定技能には「1号」と「2号」の2種類があります。製造業(素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業)は2023年6月の政令改正により、特定技能2号の対象分野に追加されました。これにより、長期就労・家族帯同が可能になり、企業にとっても貴重な人材を長期定着させやすくなっています。
| 項目 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
|---|---|---|
| 在留期間 | 最長5年(通算) | 上限なし(更新可能) |
| 家族帯同 | 不可 | 可(配偶者・子) |
| 技能要件 | 試験合格または技能実習2号修了 | 試験合格(より高度な技能) |
| 支援計画 | 必要(10項目) | 不要 |
| 製造業の対象 | 2019年〜 | 2023年6月〜 |
特定技能と技能実習は「外国人が工場で働く」という外見は似ていますが、制度の趣旨・企業の義務・外国人の権利が大きく異なります。技能実習は「技術移転」が目的であり、転職が原則不可です。一方、特定技能は労働市場への参加が目的であり、同一分野内での転職が認められています。このため、特定技能外国人を採用する企業は、待遇・職場環境の改善に積極的に取り組まなければ人材が流出するリスクがある点を理解する必要があります。
✅ メリット:即戦力として活躍できる
特定技能外国人は日本語試験(N4相当)と技能試験の双方に合格した人材です。技能実習生と異なり、入社直後から現場の戦力として機能できるケースが多く、OJTのコストを抑えられます。技能実習2号を修了した人材であれば、試験免除で特定技能1号に移行できるため、すでに自社で培ったスキルをそのまま活かせます。
⚠️ 注意:転職リスクを理解した上で採用計画を
特定技能1号は同一分野内での転職が可能です。待遇が他社より著しく低い場合や、職場環境に問題がある場合、採用後すぐに転職されるケースも報告されています。採用後の定着率を高めるために、賃金水準・住環境・コミュニケーション体制の整備が不可欠です。
製造業における特定技能の対象は、大きく以下の3分野に分類されます。2022年4月の制度改正により、従来「素形材産業」「産業機械製造業」「電気電子情報関連産業」の3分野に分かれていたものが、「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」として一本化されました。これにより、企業の登録や管理がシンプルになり、採用しやすい環境が整いました。
| 業務区分 | 主な対象作業 | 代表的な業種例 |
|---|---|---|
| 機械金属加工 | 旋盤・フライス盤・マシニングセンタ操作、プレス、溶接 | 自動車部品製造、金属加工業 |
| 電気電子機器組立て | 回路基板実装、配線・接続、組立・検査 | 電子部品メーカー、家電製造 |
| 金属表面処理 | めっき、塗装、陽極酸化処理 | 表面処理業、メッキ工場 |
| 工業包装 | 緩衝材取付、箱詰め、ラベル貼り | 物流・梱包関連製造業 |
| 印刷・製本 | オフセット印刷、製本機操作 | 印刷業、出版関連 |
特定技能の在留資格を取得するためには、「特定技能評価試験(製造分野)」と「日本語能力試験(N4以上)または国際交流基金日本語基礎テスト(A2以上)」の両方に合格する必要があります。製造分野の技能試験は、業務区分ごとに設定されており、国内外で定期的に実施されています。
なお、技能実習2号を良好に修了した外国人は、技能試験・日本語試験ともに免除されます。自社の技能実習生を特定技能に移行させるのが、最もスムーズな採用ルートのひとつです。
特定技能外国人に従事させられる業務は、在留資格申請時に届け出た「業務区分」に限られます。例えば、「機械金属加工」の区分で採用した外国人に、清掃・警備・事務作業などを主たる業務として従事させることは認められません。ただし、日本人社員と同様に行う付随的な業務(清掃など)は問題ないとされています。業務内容の範囲をあらかじめ整理しておくことが重要です。
✅ メリット:業務区分の一本化で採用の自由度が拡大
2022年4月以降、製造業3分野が統合されたことで、同一分野内の異なる業務区分をまたいで就労させることが可能になりました。例えば「機械金属加工」と「電気電子機器組立て」の両方のスキルを持つ人材を、工場の状況に応じて柔軟に配置できます。これは中小製造業にとって非常に大きなメリットです。
⚠️ 注意:業務範囲の逸脱は在留資格取り消しのリスクあり
申請した業務区分以外の業務を主たる業務として従事させた場合、出入国在留管理庁から指導・是正を求められるだけでなく、最悪の場合は在留資格の取り消しや受け入れ機関としての認定取り消しにつながります。採用前に現場の業務内容と申請区分が一致しているか、必ず確認してください。

海外在住の外国人を直接採用するルートです。送り出し機関(海外の人材紹介会社)や、国内の登録支援機関・有料職業紹介会社を通じて候補者を探します。このルートの場合、在留資格認定証明書の交付申請から始まり、在外日本国大使館での査証(ビザ)取得、入国手続きと、ステップが多い分、採用決定から就労開始まで最短でも3〜5ヶ月程度かかります。
国によっては二国間協定(MOC)を締結している国からしか採用できない場合があります。2024年時点でMOCを締結している主な送り出し国はフィリピン、ベトナム、インドネシア、カンボジア、ミャンマー、タイなど16ヶ国以上です。
国内にすでに在留している外国人(技能実習修了者、留学生、他の在留資格保持者など)を採用し、在留資格を「特定技能」に変更するルートです。候補者がすでに日本にいるため、コミュニケーションが取りやすく、採用決定から就労開始までの期間が比較的短い(約1〜3ヶ月)のが特徴です。
特に技能実習2号修了者は試験免除で移行できるため、自社技能実習生を特定技能に移行させるケースが製造業では最も多いパターンです。
| 比較項目 | 海外からの新規入国 | 国内在住者の在留資格変更 |
|---|---|---|
| 就労開始までの期間 | 3〜6ヶ月 | 1〜3ヶ月 |
| 初期費用の目安 | 50〜100万円/人 | 20〜50万円/人 |
| 候補者数 | 多い(海外市場) | 限定的(国内在留者) |
| 言語・文化適応 | 入国後にサポート必要 | すでに適応済みが多い |
| 送り出し機関費用 | 必要(10〜30万円程度) | 不要 |
| 試験免除の可能性 | なし(原則試験必要) | 技能実習2号修了で免除 |
特定技能外国人を採用する企業は、法律上「支援計画」を策定・実施する義務があります(特定技能1号の場合)。この支援計画の実施を「登録支援機関」に委託することができます。社内に外国人支援のノウハウがない中小製造業の場合、登録支援機関への委託が現実的な選択肢です。委託費用は月額2〜5万円/人が相場です。
✅ メリット:自社技能実習生の特定技能移行が最も効率的
すでに自社で技能実習2号を修了している外国人がいる場合、技能試験・日本語試験ともに免除で特定技能1号に移行できます。本人の就労意欲・適性・スキルをすでに把握しているため、採用リスクが最小限で済みます。初期費用も他のルートと比べ大幅に抑えられる(10〜20万円程度)ため、中小製造業の入門ルートとして最適です。
⚠️ 注意:海外採用はMOC締結国か必ず確認を
製造業(素形材・産業機械・電気電子情報関連)の特定技能外国人を海外から採用する場合、送り出し国によってはMOC(二国間協定)の締結が求められます。MOC未締結の国からの採用は認められない場合があるため、採用活動を始める前に出入国在留管理庁または登録支援機関に確認してください。
まず、自社が特定技能外国人を受け入れる要件を満たしているかを確認します。主なチェック項目は以下の通りです。
これらの要件を満たしていない場合、申請が却下されるだけでなく、受け入れ機関としての資格を失うリスクがあります。社内の労務管理体制を先に整備することが最優先です。
採用ルート(海外新規入国 or 国内在留資格変更)を決定し、候補者を選定します。選定の際には以下の書類・資格を確認します。
採用内定後、外国人本人と雇用契約を締結します。雇用契約書は外国人が理解できる言語(母国語)での作成が求められます。同時に、特定技能1号の場合は「1号特定技能外国人支援計画」を策定します。支援計画には以下の10項目が含まれる必要があります。
在留資格の申請は、出入国在留管理庁に対して行います。海外からの新規入国の場合は「在留資格認定証明書交付申請」、国内在住者の場合は「在留資格変更許可申請」です。申請に必要な主な書類は以下の通りです。
| 書類名 | 作成者 | 備考 |
|---|---|---|
| 在留資格認定証明書交付申請書(または変更許可申請書) | 企業 | 出入国在留管理庁の書式を使用 |
| 特定技能雇用契約書の写し | 企業・外国人 | 母国語訳も添付 |
| 1号特定技能外国人支援計画書 | 企業(または登録支援機関) | 全10項目の記載必要 |
| 技能試験合格証明書・日本語試験合格証明書 | 外国人 | 技能実習2号修了者は修了証明書 |
| 住民税・社会保険料の納付証明書 | 企業 | 直近1年分 |
| 登録支援機関との支援委託契約書の写し | 企業 | 委託する場合のみ |
| 外国人の履歴書(母国語・日本語) | 外国人 | 職歴・学歴を詳細に記載 |
申請から審査結果が出るまでの標準処理期間は約1〜3ヶ月です。審査が長期化するケースもあるため、余裕を持ったスケジュールが重要です。
在留資格が許可され、外国人が就労を開始した後も、企業には継続的な届出・報告義務があります。主なものとして、「受入れ状況に係る届出(4半期ごと)」「支援実施状況に係る届出(1年ごと)」があります。これらの届出を怠ると、受け入れ機関の認定が取り消されるリスクがあります。
✅ メリット:行政書士・登録支援機関への委託で手続き負担を大幅軽減
在留資格の申請書類は数十枚に及ぶことも珍しくなく、記載ミスや書類漏れがあると申請が却下されます。行政書士への申請代理委託(費用:5〜15万円/件)や、登録支援機関への包括的な業務委託を活用することで、人事担当者の工数を大幅に削減しながら、申請の正確性を高めることができます。
⚠️ 注意:在留期限切れのまま就労させると不法就労幇助に
在留資格の更新手続きを失念し、在留期限が切れた状態で外国人を働かせた場合、企業側は「不法就労助長罪」に問われる可能性があります(3年以下の懲役または300万円以下の罰金)。在留カードの期限を管理する仕組みを社内に整備し、期限の3ヶ月前には更新手続きを開始するよう徹底してください。

特定技能外国人の採用にかかる初期費用は、採用ルートや活用する支援機関によって大きく異なります。海外からの新規入国の場合、送り出し機関への手数料・ビザ申請費用・渡航費などが加算されるため、国内在住者の採用と比べて高くなる傾向があります。以下に代表的なコスト項目とその相場をまとめます。
| 費用項目 | 国内在住者採用 | 海外からの新規入国 |
|---|---|---|
| 職業紹介手数料(人材紹介会社) | 20〜40万円/人 | 30〜60万円/人 |
| 送り出し機関手数料 | 不要 | 10〜30万円/人 |
| 行政書士費用(在留資格申請) | 5〜10万円/件 | 7〜15万円/件 |
| 渡航費・入国前健康診断 | 不要 | 3〜8万円/人 |
| 住居初期費用(敷金・礼金等) | 10〜20万円/人 | 10〜20万円/人 |
| 登録支援機関への初期登録費用 | 0〜5万円 | 0〜5万円 |
| 合計目安 | 35〜75万円/人 | 60〜140万円/人 |
採用後も継続的なコストが発生します。主なランニングコストとして、登録支援機関への委託費用(月額2〜5万円/人)、日本語学習支援費用(月額5,000円〜2万円/人)、社宅・宿舎の維持費(会社負担分)などが挙げられます。これらを含めた総人件費は、日本人社員と同水準以上に設定する義務があります。
自社の技能実習生を特定技能に移行させる場合、職業紹介手数料や送り出し機関費用が不要なため、初期費用は大幅に削減できます。主なコストは行政書士費用(5〜10万円)と登録支援機関への委託費のみとなり、総計10〜20万円程度が相場です。これが製造業で最も費用対効果の高い採用ルートとされる理由です。
✅ メリット:採用コストを日本人採用と比較すると優位性が明確
日本人の中途採用では、人材紹介手数料として年収の30〜35%(製造業の場合、1人あたり120〜180万円程度)が相場です。特定技能の場合、国内在住者採用ルートで35〜75万円/人と比べると、初期コストの優位性は明らかです。さらに、製造業の現場では慢性的な求人難が続いており「お金を払っても日本人が集まらない」という現実を踏まえると、特定技能の活用は合理的な選択です。
⚠️ 注意:外国人本人から手数料を徴収することは禁止
採用にかかる費用(紹介手数料・書類作成費など)を外国人本人に負担させることは法律で禁じられています。また、住居費・食費を給与から過剰に天引きすることも問題になります。強制貯金や身分証の取り上げは論外です。コンプライアンス違反は行政処分・刑事罰の対象となるため、必ず適正な労務管理を行ってください。
特定技能外国人を受け入れる企業(特定技能所属機関)は、以下の要件を満たす必要があります。これらは申請時だけでなく、受け入れ期間中も継続的に遵守することが求められます。
特定技能1号外国人を受け入れる企業は、「1号特定技能外国人支援計画」を策定し、以下10項目の支援を実施しなければなりません。登録支援機関に委託した場合でも、最終的な責任は企業側にあります。
特に重要なのは「定期面談(4半期に1回以上)」です。面談では、外国人本人と直属の上司とは別に、担当者が個別に面談を行い、雇用状況・生活状況・悩みなどを確認する必要があります。面談の結果は記録として保管し、問題が発覚した場合は出入国在留管理庁への報告義務が生じます。
受け入れ企業には、下記の定期的な届出義務があります。届出の怠りや虚偽報告は受け入れ機関の認定取り消しや罰則の対象となります。
| 届出の種類 | 提出頻度 | 提出先 |
|---|---|---|
| 受入れ・活動状況に関する届出 | 4半期ごと(年4回) | 出入国在留管理庁 |
| 支援実施状況に関する届出 | 年1回 | 出入国在留管理庁 |
| 特定技能雇用契約変更・終了の届出 | 変更・終了後14日以内 | 出入国在留管理庁 |
| 登録支援機関との委託契約変更の届出 | 変更後14日以内 | 出入国在留管理庁 |
✅ メリット:支援義務の実施が定着率向上につながる
支援計画の10項目は「義務」として捉えられがちですが、実際にはこれらの支援を丁寧に実施している企業ほど外国人の定着率が高い傾向があります。生活面のサポートが充実している職場は、外国人コミュニティ内での口コミで評判が広がり、次の採用にも有利に働きます。義務を超えた「職場環境づくり」への投資と考えることが重要です。
⚠️ 注意:届出の「14日以内」ルールを見落とさない
雇用契約の終了(退職・解雇)が発生した場合、14日以内に出入国在留管理庁へ届け出る義務があります。これを怠ると罰則の対象となります。また、外国人本人も14日以内に在留カードの住所変更等の手続きを行う義務があるため、退職の際には企業側からも案内するようにしましょう。外国人が不法残留の状態になることを防ぐためにも重要な手続きです。

特定技能制度を活用した製造業の採用は、正しい手順と体制整備を行えば、深刻な人手不足を解決する強力な手段となります。本記事で解説してきた内容を以下に整理します。
特定技能外国人の採用は、制度の複雑さから「ハードルが高い」と感じる企業も多いですが、登録支援機関や行政書士といった専門家を上手に活用すれば、中小製造業でも十分に実現できます。人手不足が深刻化する前に、早期に採用体制を整えることが、製造業の持続的な競争力維持につながります。不明点は出入国在留管理庁の相談窓口(0570-013904)や、地域の登録支援機関に積極的に相談してみましょう。