「後継者がいない」「誰に相談すればいいかわからない」「費用や手続きが複雑で不安」——九州で事業を営むオーナー経営者の多くが、こうした悩みを抱えながらも一歩を踏み出せずにいます。実は、九州には国・県・民間が連携した充実した相談窓口が整備されており、正しい窓口と手順を知るだけで、承継問題は驚くほどスムーズに動き出します。この記事では、九州での事業承継相談を徹底解説します。

中小企業庁の調査によると、全国の中小企業経営者の平均年齢は2023年時点で約62歳に達しており、九州・沖縄地域でもその傾向は顕著です。帝国データバンクの「九州・沖縄地区後継者不在率調査(2023年)」では、後継者不在率が約57%に上ることが明らかになっています。特に福岡県外の地方部(大分・宮崎・鹿児島・長崎など)では、人口流出が重なり後継者候補の確保が一層困難になっています。
後継者不足が続くと、廃業によって地域の雇用・技術・ブランドが失われるだけでなく、地域経済全体の縮小につながります。九州7県+沖縄では毎年数百社規模の黒字廃業が発生しており、「経営は黒字なのに廃業せざるを得ない」という経営者の声は後を絶ちません。
「まだ早い」「元気なうちは自分でやる」という考えは理解できますが、事業承継の準備には平均5〜10年かかると言われています。準備が遅れると次のリスクが生じます。
実際、九州事業承継・引継ぎ支援センターへの相談件数は年々増加しており、2022年度は九州全体で3,800件超の相談が寄せられています。早期に行動を起こすことが、最良の選択肢を持てるかどうかを左右します。
| 県名 | 後継者不在率(目安) | 主な産業・特徴 | 主な相談拠点 |
|---|---|---|---|
| 福岡県 | 約53% | IT・流通・飲食。相談インフラが最も充実 | 福岡事業承継・引継ぎ支援センター |
| 佐賀県 | 約60% | 窯業・農業・製造業。小規模事業者が多い | 佐賀事業承継・引継ぎ支援センター |
| 長崎県 | 約62% | 観光・水産・造船。島嶼部での後継者確保が課題 | 長崎事業承継・引継ぎ支援センター |
| 熊本県 | 約58% | 農業・半導体関連・食品加工 | 熊本事業承継・引継ぎ支援センター |
| 大分県 | 約61% | 温泉観光・製造・農業 | 大分事業承継・引継ぎ支援センター |
| 宮崎県 | 約63% | 農業・畜産・観光 | 宮崎事業承継・引継ぎ支援センター |
| 鹿児島県 | 約65% | 農業・焼酎・観光。南部ほど不在率が高い | 鹿児島事業承継・引継ぎ支援センター |
| 沖縄県 | 約55% | 観光・IT・建設。若年層の事業承継意欲は比較的高い | 沖縄事業承継・引継ぎ支援センター |
✅ ポイント(メリット)
九州は全8県(+沖縄)それぞれに公的な「事業承継・引継ぎ支援センター」が設置されており、無料で専門家に相談できる環境が整っています。首都圏と比べても支援の網羅性は高く、初回相談のハードルは非常に低いです。
⚠️ 注意点
後継者不在率のデータはあくまで目安です。「自分の会社には当てはまらない」と思っていても、親族の意向や税務上の問題が後から発覚するケースは多くあります。まずは現状把握のための相談を早めに行いましょう。

最初に相談すべき窓口は、中小企業庁が全国に設置している「事業承継・引継ぎ支援センター」です。九州・沖縄の各県に1拠点ずつ設置されており、初回から専門家への相談が無料で受けられます。センターには中小企業診断士・税理士・弁護士・金融機関OBなどの専門スタッフが常駐しており、親族内承継からM&Aまで幅広く対応します。
| センター名 | 所在地 | 電話番号(代表) | 主な対応内容 |
|---|---|---|---|
| 福岡事業承継・引継ぎ支援センター | 福岡市博多区 | 092-472-6006 | 親族承継・M&A・第三者承継全般 |
| 佐賀事業承継・引継ぎ支援センター | 佐賀市白山 | 0952-36-7440 | 小規模事業者の承継・マッチング |
| 長崎事業承継・引継ぎ支援センター | 長崎市桜町 | 095-832-9868 | 島嶼部含む県内全域対応 |
| 熊本事業承継・引継ぎ支援センター | 熊本市中央区 | 096-325-7801 | 農業法人・製造業の承継支援 |
| 大分事業承継・引継ぎ支援センター | 大分市中央町 | 097-535-0090 | 観光業・製造業の承継全般 |
| 宮崎事業承継・引継ぎ支援センター | 宮崎市橘通西 | 0985-35-6893 | 農業・畜産業の事業承継 |
| 鹿児島事業承継・引継ぎ支援センター | 鹿児島市東千石町 | 099-225-9533 | 一次産業・離島事業者の支援 |
| 沖縄事業承継・引継ぎ支援センター | 那覇市おもろまち | 098-941-1781 | 観光業・IT企業の承継・M&A |
各市区町村の商工会議所・商工会でも、事業承継に関する無料相談を受け付けています。特に従業員20名以下の小規模事業者や個人事業主に対しては、地域密着型のサポートが充実しています。相談内容によっては、商工会議所が窓口となって事業承継・引継ぎ支援センターへ橋渡しをしてくれるケースもあります。
福岡商工会議所では「事業承継サポートデスク」を設置しており、予約制で中小企業診断士による個別相談が受けられます(会員・非会員問わず初回無料)。
公的機関での初期相談を経て、具体的な手続きに入る段階では民間の専門家への依頼が必要になります。主な専門家と役割は以下の通りです。
✅ ポイント(メリット)
公的機関への相談は完全無料かつ秘密厳守が原則です。「相談したら話が広がってしまうのでは」という心配は不要です。まずは事業承継・引継ぎ支援センターに電話一本入れることから始めましょう。多くの場合、1週間以内に面談日程が設定されます。
⚠️ 注意点
民間のM&Aアドバイザーに直接相談する場合、着手金として50万〜200万円を請求するケースがあります。初期相談は必ず公的機関を活用し、民間専門家への依頼は内容と費用を十分に確認してから判断しましょう。
事業承継の方法は大きく3つに分類されます。それぞれにメリット・デメリットと費用感が異なるため、自社の状況に合った選択が重要です。
| 承継方法 | 概要 | メリット | デメリット | 費用目安 |
|---|---|---|---|---|
| 親族内承継 | 子・孫・配偶者などへの承継 | 従業員・取引先の理解を得やすい。事業承継税制が使える | 後継者が経営能力を持つかどうかが課題。相続トラブルのリスク | 税理士・弁護士報酬50万〜300万円程度 |
| 親族外承継(役員・従業員) | 社内の役員や従業員が後継者になる | 経営の継続性が高い。現場を熟知している | 後継者の自己資金が不足しやすい。MBOローンの調達が必要 | 株式評価・MBO支援費用100万〜500万円 |
| M&A(第三者承継) | 社外の企業・個人への売却 | 創業者が対価を得られる。雇用の維持が条件にできる | 文化的摩擦・情報漏洩リスク。仲介手数料が高額になる場合も | 仲介手数料200万〜2,000万円(成功報酬型) |
九州のM&Aにおける仲介費用は、売却金額に応じて異なります。下記はレーマン方式による成功報酬の一般的な目安です。
| 売却金額(企業価値) | 成功報酬率(目安) | 報酬額の目安 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 〜5,000万円 | 5% | 250万円 | 小規模M&A(スモールM&A)。九州では最も多いゾーン |
| 5,000万〜1億円 | 4% | 200万〜400万円 | 中小M&Aガイドラインの適用範囲 |
| 1億〜5億円 | 3% | 300万〜1,500万円 | 地域密着型の仲介会社が対応するケースが多い |
| 5億円超 | 1〜2% | 500万円〜 | 大手M&Aアドバイザリーが対応 |
※上記は目安であり、着手金・月額報酬・デューデリジェンス費用が別途発生する場合があります。事業承継・引継ぎ支援センター経由のマッチングでは、仲介手数料が無料または低廉になるケースもあります。
M&Aや親族外承継では、自社株式の評価が必要です。主な評価方法は以下の3種類で、目的によって使い分けます。
株価評価の費用は、税理士・会計士への依頼で20万〜100万円程度が一般的です。
✅ ポイント(メリット)
事業承継・引継ぎ支援センターを通じたM&Aマッチングは、成功報酬ゼロ円〜低廉な額で利用できる場合があります。まずセンターに相談し、自社に合った支援が受けられるか確認することで、余分なコストを大幅に節約できます。
⚠️ 注意点
M&A仲介会社の中には「両手仲介(売り手・買い手の双方から手数料を取る)」を行うところがあります。利益相反が生じる可能性があるため、FA(ファイナンシャルアドバイザー)契約か仲介契約かを事前に明確にしましょう。

事業承継の第一歩は、自社の現状を客観的に把握する「見える化」です。具体的には以下の4点を整理します。
中小企業庁が提供する「事業承継診断票」や「知的資産経営報告書」の様式を活用すると、整理が効率的に進みます。これらは無料でダウンロードできます。
後継者候補が決まったら、育成計画を文書化することが重要です。目安として以下のスケジュールで進めることが推奨されます。
「事業承継計画書」は、いつ・誰に・どのように引き継ぐかを明示した最重要ドキュメントです。金融機関への信頼性確保や、補助金申請の際にも必要になります。主な記載項目は以下の通りです。
事業承継計画書の作成には、事業承継・引継ぎ支援センターや商工会議所の専門家が無料でサポートしてくれます。自力作成が難しい場合は積極的に活用しましょう。
株式の移転、役員変更登記、個人保証の解除など、実務的な手続きが集中する段階です。主な手続きと期間の目安を整理します。
| 手続き内容 | 担当専門家 | 所要期間の目安 | 費用目安 |
|---|---|---|---|
| 株式評価・贈与契約書作成 | 税理士 | 1〜3ヶ月 | 30万〜100万円 |
| 役員変更登記 | 司法書士 | 1〜2週間 | 3万〜10万円 |
| 個人保証の解除交渉(経営者保証ガイドライン活用) | 金融機関・弁護士 | 3〜12ヶ月 | 弁護士費用20万〜50万円 |
| 事業承継税制(特例措置)の認定申請 | 税理士・都道府県窓口 | 2〜6ヶ月 | 税理士報酬50万〜150万円 |
| M&A成約後のPMI(統合後プロセス) | M&Aアドバイザー・中小企業診断士 | 6〜24ヶ月 | コンサル費用100万〜300万円 |
✅ ポイント(メリット)
「経営者保証ガイドライン」を活用すると、後継者が個人保証を引き継がずに済む可能性があります。九州の金融機関でも適用事例が増えており、承継後の後継者の負担を大幅に軽減できます。事前に主取引金融機関と相談しておくことを強くお勧めします。
⚠️ 注意点
贈与税・相続税の申告期限を過ぎると、事業承継税制の特例措置が使えなくなる場合があります。特に特例承継計画の提出期限(2026年3月31日が現行期限)は厳守が必要です。早めに税理士に確認しましょう。
中小企業庁が実施する「事業承継・引継ぎ補助金」は、事業承継やM&Aに関連する費用の一部を補助する制度です。補助対象・補助率・補助上限額は以下の通りです(2024年度の一般的な枠を参考に記載)。
| 補助枠 | 対象 | 補助率 | 補助上限 | 主な対象費用 |
|---|---|---|---|---|
| 経営革新枠 | 承継後の新規事業・事業転換 | 2/3(小規模事業者) | 600万円 | 設備費・広告費・専門家活用費など |
| 専門家活用枠 | M&A前後の専門家費用 | 2/3 | 600万円 | FA費用・デューデリジェンス費用・統合費用 |
| 廃業・再チャレンジ枠 | 事業承継を機に廃業し再起業する場合 | 2/3 | 150万円 | 廃業に伴う在庫処分費・原状回復費など |
この補助金は年に数回の公募があり、採択率は枠によって異なります。申請には事業承継計画書・見積書などの書類準備が必要なため、事業承継・引継ぎ支援センターや商工会議所に相談しながら進めることを推奨します。
事業承継税制の特例措置は、後継者が取得した自社株式に係る贈与税・相続税の猶予・免除を受けられる制度です。通常、非上場株式の贈与・相続には高額な税負担が生じますが、この制度を活用することで最大100%の税額が猶予されます。
主な要件は以下の通りです。
国の制度に加えて、九州各県でも独自の補助金・融資制度が用意されています。以下は代表的な制度例です(各年度によって内容が変わるため、最新情報は各県の中小企業支援機関で確認してください)。
✅ ポイント(メリット)
事業承継税制の特例措置と事業承継・引継ぎ補助金を組み合わせて活用することで、税負担を猶予しながら新事業への投資費用も補助を受けられます。特例措置の申請期限(2026年3月)が迫っているため、今すぐ動き出すことが最大のメリットを生みます。
⚠️ 注意点
事業承継税制の猶予は「猶予」であり、後継者が5年以内に代表を退任したり、株式を譲渡した場合は猶予された税額+利子税が一括納付になります。長期的な事業継続の意思が固い場合のみ活用を検討しましょう。
事業承継が失敗する最大の原因の一つが、先代と後継者のコミュニケーション不足です。「背中を見て学べ」という姿勢では、現代の経営環境では通用しません。定期的な経営会議・1on1ミーティングの実施、「引き継ぎノート」の作成など、意図的に情報共有の場を設けることが重要です。
また、先代が「表面上は退いたが実質的に口を出し続ける」という状況も後継者のモチベーション低下を招きます。権限移譲のスケジュールを文書で明確化し、後継者が責任を持って経営できる環境を整えましょう。
事業承継の情報が従業員に伝わるタイミングと方法を誤ると、優秀な人材の離職や取引先からの信頼失墜につながります。一般的には以下の順序でコミュニケーションを取ることが推奨されます。
M&Aの場合は情報管理が特に重要で、守秘義務契約(NDA)を締結した上で交渉を進め、成約前の情報漏洩を防ぐ必要があります。
中小企業経営者の多くが個人保証を設定しています。事業承継時にこれを後継者に引き継がせると、承継後の事業運営や後継者の個人資産に大きなリスクが生じます。「経営者保証に関するガイドライン」(2014年施行)を活用することで、一定の条件を満たせば個人保証を解除・不設定にできる可能性があります。
2023年4月からは、金融機関が融資に際して個人保証を求める場合に理由の説明義務が課されるようになり、後継者の個人保証問題は以前より解決しやすい環境になっています。メインバンクに早めに相談することをお勧めします。
✅ ポイント(メリット)
事業承継を機に、個人保証の解除交渉を積極的に行いましょう。後継者が個人保証を負わないことで、優秀な後継者候補が「承継を引き受けてもよい」と感じるハードルが大きく下がります。金融機関との関係強化にもつながります。
⚠️ 注意点
事業承継後も先代が「会長」として残り続けることで、後継者が思い切った経営判断をできなくなる「院政問題」が起きやすいです。先代の関与範囲と期間を事前に明確に決め、文書化しておくことが重要です。

この記事では、九州で事業承継を検討している経営者が知るべき情報を網羅的に解説しました。最後に、今日から取れる具体的な行動をまとめます。
九州には充実した公的支援インフラがあります。「相談するのが恥ずかしい」「まだ早い」と思わず、まず一歩を踏み出してください。あなたが長年培ってきた事業と雇用を次の世代に引き継ぐことは、地域経済への最大の貢献でもあります。