「パートやアルバイトを正社員にしたいけど、コストが心配…」「助成金があると聞いたけど、手続きが複雑そうで二の足を踏んでいる」——そんな悩みを抱える経営者・人事担当者は少なくありません。実は、国の助成金制度を活用すれば、一人当たり最大80万円以上の支援を受けながら非正規社員を正社員化できます。本記事では申請手順から注意点まで徹底解説します。
📋 目次

非正規社員を正社員化する際に活用できる助成金は複数存在しますが、最も代表的かつ利用件数が多いのが厚生労働省が所管する「キャリアアップ助成金」です。この制度は、有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の労働者のキャリアアップを促進するために設けられており、正社員化をはじめとした処遇改善に取り組む事業主に対して幅広い支援を行っています。
2024年度(令和6年度)時点において、キャリアアップ助成金には以下のような複数のコースが設けられています。正社員化に直接関連するのは主に「正社員化コース」ですが、関連する処遇改善や教育訓練を組み合わせることで、より多くの支援を受けることも可能です。
| コース名 | 主な内容 | 最大支給額(1人当たり) | 対象労働者 |
|---|---|---|---|
| 正社員化コース | 有期雇用→正規雇用への転換・直接雇用 | 80万円(大企業60万円) | 有期雇用・無期雇用・派遣労働者 |
| 障害者正社員化コース | 障害のある有期雇用労働者等の正社員化 | 120万円(大企業90万円) | 障害者である有期雇用労働者等 |
| 賃金規定等改定コース | 賃金規定の増額改定 | 50万円(大企業33.3万円) | 有期雇用・短時間労働者 |
| 社会保険適用時処遇改善コース | 社会保険適用に伴う処遇改善 | 50万円 | 新たに社会保険が適用される労働者 |
| 短時間労働者労働時間延長コース | 週所定労働時間の延長と社会保険適用 | 30万円(大企業20万円) | 週20時間未満の短時間労働者 |
助成金は融資(借入)と異なり、返済不要の資金です。雇用関係の助成金は原則として後払い(費用発生後に申請・受給)となりますが、適切に手続きを行えば確実に受給できるため、正社員化にかかるコスト増加分を大きく補填することができます。特に中小企業にとっては、人件費増加への不安を軽減しながら雇用の安定化を図れる絶好の機会です。
✅ メリット:返済不要で最大80万円の支援
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は中小企業の場合、1人転換につき最大80万円が支給されます。年間10人転換すれば最大800万円の受給も理論上可能です。また、助成金は課税対象となりますが、正社員化による社会保険料増加分や賃金上昇分の一部を確実に補填できます。
⚠️ 注意:助成金はあくまで後払い・書類審査が厳格
助成金は「先にお金がもらえる」制度ではなく、転換後に申請して後から受給する仕組みです。書類の不備や要件を満たさない場合は支給されないため、事前準備が非常に重要です。また、不正受給が発覚した場合は全額返還+追加徴収のペナルティが課されます。
キャリアアップ助成金の他にも、正社員化に関連して活用できる可能性のある助成金があります。たとえば、雇用する際の人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)や、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)なども要件次第で組み合わせて申請できる場合があります。ただし、同一の支出に対して複数の助成金を重複申請することは原則として認められていないため、社会保険労務士や都道府県労働局に事前確認することを強くお勧めします。
非正規社員の正社員化において最も活用されているキャリアアップ助成金「正社員化コース」について、詳細を解説します。2024年度の制度では、転換パターンによって支給額が異なることに注意が必要です。
| 転換パターン | 中小企業(1人当たり) | 大企業(1人当たり) | 加算要件 |
|---|---|---|---|
| 有期雇用→正規雇用(無期雇用を経ずに直接) | 80万円 | 60万円 | 派遣からの直接雇用:追加28.5万円(中小) |
| 有期雇用→無期雇用 | 40万円 | 30万円 | — |
| 無期雇用→正規雇用 | 40万円 | 30万円 | — |
| 派遣労働者→正規雇用(直接雇用) | 108.5万円 | 88.5万円 | 派遣加算分を含む |
✅ ポイント:有期→正規の一発転換が最もお得
無期雇用を経由せずに有期雇用から直接正規雇用(正社員)へ転換した場合、中小企業では1人当たり80万円と最も高額な助成を受けられます。「まず無期に転換してから…」と段階を踏むよりも、一度に正社員化するほうが金額的に有利です。ただし、それぞれの転換に対して要件を満たせば積み上げも可能なケースもあります。
正社員化コースには、1事業所当たりの年間支給申請人数の上限があります。2024年度時点では、1事業所につき年間20人まで(中小企業の場合)申請可能とされています。複数事業所を持つ企業では事業所ごとにカウントされます。なお、支給申請は転換日(正社員化した日)から起算して6か月後から1年以内に行う必要があり、この期限を過ぎると申請できなくなるため注意が必要です。
生産性要件とは、助成金申請の直近3年度の生産性(営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課)を雇用保険被保険者数で割った数値が、3年前と比較して6%以上伸びているという条件です。この要件を満たす場合、支給額に一定の加算が行われます(詳細は毎年変更される場合があるため、最新の厚生労働省資料を確認してください)。
⚠️ 注意:年間申請上限と期限に要注意
1事業所当たり年間20人という上限があるため、大規模な正社員化計画がある場合は複数年度にわたる計画立案が必要です。また、転換後6か月以上経過した後から申請できますが、転換から1年以内という上限もあります。この期間を見落として申請機会を失う事業主が毎年一定数います。転換日から逆算して申請スケジュールを必ず設定してください。

キャリアアップ助成金(正社員化コース)を受給するには、事業主側と労働者側の双方について複数の要件を満たす必要があります。要件を満たさないまま転換してしまうと、後から申請しても不支給となるケースがあります。転換前に必ず確認してください。
| 要件カテゴリ | 具体的な条件 | 確認方法・注意点 |
|---|---|---|
| キャリアアップ計画の策定 | 正社員化転換前に「キャリアアップ計画書」を作成し、ハローワーク(または都道府県労働局)に提出・認定を受けていること | 計画書の提出は転換前が必須。事後提出は不可。 |
| 就業規則・労働協約の整備 | 正社員と非正規社員の転換制度を規定した就業規則または労働協約が整備されていること | 規定がない場合は転換前に整備が必要。規定内容が助成金要件を満たすか確認。 |
| 雇用保険の適用 | 雇用保険の適用事業主であること | 雇用保険未加入の事業主は申請不可。 |
| 労働関係法令の遵守 | 労働基準法・最低賃金法等の違反がないこと | 申請時点から過去3年以内の重大な違反がある場合は不支給。 |
| 支給申請前の解雇・雇止めなし | 支給申請日の前日から起算して6か月前の日から1年間、特定受給資格者となる離職者(解雇等)を出していないこと | リストラや解雇を行った場合は受給不可能。 |
助成金の対象となる労働者にも要件があります。以下のすべてを満たす必要があります。
2023年度からの制度改定により、正社員化後に賃金を3%以上増額させることが要件として追加されました。この計算は、転換前の賃金(転換前6か月の平均賃金)と転換後の賃金(転換後6か月の平均賃金)を比較して行います。
例:転換前の月額賃金が18万円の場合、転換後は最低でも18万円×1.03=18万5,400円以上にする必要があります。社会保険料の増加分を含めた実質的なコスト計算も合わせて行うことが重要です。
✅ チェックリストで事前確認を徹底しよう
キャリアアップ計画書の事前提出、就業規則の転換規定整備、対象労働者の6か月以上勤務、賃金3%以上の増額——これら4点が特に見落とされやすいポイントです。社会保険労務士に依頼する場合でも、経営者自身がこれらの要件を理解しておくことが、スムーズな申請への近道となります。
⚠️ 注意:「正社員と同等の処遇」要件の見落としに注意
単に雇用契約書に「正社員」と記載するだけでは不十分です。実態として、期間の定めのない雇用契約であること、就業規則上の正規社員の定義を満たすこと、賃金形態・賞与・社会保険等の処遇が正規社員と同等以上であることが求められます。形式だけ整えた「名ばかり正社員化」は審査で指摘される場合があります。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の申請は、大きく分けて「事前準備」「転換実施」「申請・受給」の3フェーズに分かれます。各ステップを正確に踏まなければ受給できないため、以下の流れをしっかり確認してください。
【Step 1-1】キャリアアップ計画書の作成・提出
まず、今後の非正規社員のキャリアアップに関する計画を記載した「キャリアアップ計画書」を作成します。計画書には、対象労働者の範囲、目標とするキャリアアップの内容、計画期間(3年〜5年)などを記載します。この計画書は正社員化転換日の前日までに、管轄のハローワーク(または都道府県労働局)に提出し、確認印をもらう必要があります。
【Step 1-2】就業規則の整備
就業規則に「正社員転換規定」が明記されていることが必要です。具体的には、「有期雇用労働者が一定期間勤務した後、正社員への転換を申請できる(または会社が転換できる)」旨の規定を設けます。常時10名未満の事業所で就業規則の届出義務がない場合でも、規定自体は整備しておく必要があります。
【Step 1-3】対象者の確認
転換を予定している労働者が、転換前に6か月以上継続して有期雇用されているかを確認します。入社日と転換予定日を確認し、6か月に満たない場合は要件を満たすまで待つ必要があります。
【Step 2-1】正社員転換の実施
要件を満たした対象者について、正社員への転換を実施します。雇用契約書を新たに作成し、両者が署名・捺印を行います。この際、以下の書類を必ず整備・保管してください。
【Step 2-2】転換後6か月間の継続雇用
転換後、6か月間は継続して正規雇用を維持し、転換前より3%以上増額した賃金を支払い続ける必要があります。この6か月間が「観察期間」となり、この期間中に退職・解雇が発生すると助成金は受給できません。
【Step 3-1】支給申請書類の準備
転換後6か月の賃金支払いが完了したら、支給申請書類を準備します。主な必要書類は以下のとおりです。
| 書類名 | 取得先・備考 | 注意事項 |
|---|---|---|
| 支給申請書(様式第10号) | 厚生労働省ウェブサイトよりダウンロード | 最新様式を使用すること |
| キャリアアップ計画書(写し) | 事前に提出・確認を受けたもの | 労働局の確認印があるもの |
| 労働協約または就業規則(写し) | 転換規定が明記されているページ | 届出済みのものが望ましい |
| 雇用契約書または労働条件通知書(転換前後) | 社内保管 | 転換前後両方が必要 |
| 賃金台帳(転換前後6か月分) | 社内保管 | 3%以上の賃金増額が確認できること |
| 出勤簿・タイムカード(転換前後6か月分) | 社内保管 | 労働時間が確認できるもの |
| 登記事項証明書または開業届(写し) | 法務局または税務署 | 中小企業の確認のため |
【Step 3-2】管轄労働局への申請
書類が揃ったら、事業所を管轄する都道府県労働局またはハローワークへ郵送または持参にて支給申請を行います。申請先は事業所の所在地によって異なりますので、事前に確認してください。2024年度からは電子申請にも対応していますので、e-Gov(電子政府の総合窓口)を利用することも可能です。
【Step 3-3】審査・支給決定
申請後、労働局による書類審査が行われます。審査期間は通常2か月〜6か月程度かかることが多く、追加資料の提出を求められることもあります。支給決定後、指定口座に助成金が振り込まれます。
✅ 申請は社会保険労務士への依頼が効率的
申請書類は多岐にわたり、書類の不備による不支給や再申請のリスクがあります。社会保険労務士(特定社労士)に依頼すれば、計画書の作成から申請まで一括サポートを受けられます。費用相場は1件当たり5万〜20万円程度ですが、受給額に比べれば費用対効果は十分高いといえます。
⚠️ 注意:申請期限の厳守が絶対条件
支給申請は、転換後6か月の賃金支払い完了日の翌日から起算して2か月以内が申請期限です。この期限を1日でも過ぎると申請自体が受け付けられません。カレンダーに必ず記入し、期限管理を徹底してください。複数名を転換した場合は、それぞれの申請期限が異なることにも注意が必要です。

キャリアアップ助成金の申請において、毎年多くの事業主が陥る失敗パターンがあります。これらを事前に把握しておくことで、確実に受給できる可能性が大幅に高まります。
最も多いミスが、「キャリアアップ計画書を提出する前に正社員転換を実施してしまう」というものです。計画書は転換前日までに提出・確認を受けることが必須要件であり、後から提出したり、転換後に書類を整えても一切認められません。転換の検討を始めた段階で、すぐにキャリアアップ計画書の作成・提出に着手することが重要です。
就業規則に転換制度の規定はあるが、その内容が助成金要件を満たしていないケースも頻繁に見られます。たとえば「会社の判断で正社員に転換することがある」という曖昧な記載では不十分で、「一定の要件(勤続年数・評価等)を満たした有期雇用労働者を正規雇用に転換する」旨の具体的な規定が必要です。転換前に社会保険労務士に就業規則のレビューを依頼することをお勧めします。
支給申請時には転換前後6か月分の賃金台帳・出勤簿が必要です。しかし、中小企業では賃金台帳が不完全だったり、出勤簿が手書きで管理が杜撰なケースがあります。申請時に書類が揃わず不支給になるケースも少なくありません。日頃から適切な労務書類の管理を心がけてください。
転換後6か月の観察期間中に、対象労働者が自己都合退職してしまった場合も助成金は受給できません。もちろん会社都合で解雇した場合はなおさら不可です。転換前に本人の意思確認を十分に行い、定着支援の観点からも職場環境の改善に取り組むことが重要です。
| 改定年度 | 主な変更内容 | 影響・対応ポイント |
|---|---|---|
| 2023年度 | 賃金3%以上増額要件の追加 | 転換時に必ず3%以上の賃上げが必要に。コスト試算の見直しが必要。 |
| 2023年度 | 有期雇用期間要件の厳格化 | 転換前の有期雇用期間要件が6か月以上に変更。 |
| 2024年度 | 電子申請の対応強化 | e-Govからの電子申請が可能に。手続きの効率化が可能。 |
| 2024年度 | 支給額の維持・拡充検討 | 中小企業向けの支給額は維持。最新の告示・通達を定期確認が必要。 |
✅ 失敗を防ぐには「転換前の専門家相談」が最善策
上記の失敗パターンのほとんどは、転換実施前の段階で社会保険労務士や都道府県労働局の相談窓口に確認することで防げます。都道府県労働局では無料相談を実施しており、キャリアアップ助成金に特化したアドバイスを受けることが可能です。費用をかけたくない場合はまず無料相談から始めましょう。
⚠️ 注意:不正受給には厳しいペナルティ
書類を偽造したり、実態のない正社員化を行う「不正受給」は絶対に行ってはなりません。発覚した場合は、受給した助成金の全額返還に加えて、その2割に相当する額が加算徴収されます。さらに、一定期間(5年間)は全ての雇用関係助成金の申請が禁止されます。助成金コンサルタントと称する業者の中には不正受給を誘導するケースもあるため、信頼できる専門家を選ぶことが重要です。
助成金申請を確実に成功させるために、現場で役立つ実践的なポイントをまとめます。書類管理から対象者選定、専門家活用まで、具体的なアクションを解説します。
助成金申請には大量の書類が必要となりますが、これらをデジタル化して管理することで、申請作業を大幅に効率化できます。具体的には、以下のような管理体制の構築をお勧めします。
一度に多数を正社員化するよりも、計画的に転換対象者を選定することで、助成金を最大限に活用できます。以下の観点で優先順位を設定することをお勧めします。
助成金申請をサポートする社会保険労務士を選ぶ際は、以下のポイントに注目してください。キャリアアップ助成金の申請経験が豊富であること、報酬体系が透明であること(成功報酬型のみの場合はリスクあり)、顧問契約ではなくスポット依頼も対応していることが重要です。
費用相場の目安は以下のとおりです。
✅ 無料相談窓口を積極的に活用しよう
助成金申請に不安がある場合、都道府県労働局やハローワークの「キャリアアップ助成金担当窓口」では無料で相談に応じています。また、中小企業向けには「よろず支援拠点」(中小企業庁)や「社会保険労務士による無料相談会」なども活用できます。まずは費用をかけずに情報収集することが賢明です。
⚠️ 注意:助成金コンサルタントの選定には慎重に
「必ず助成金が受給できます」「書類は全部こちらでやります(中身は見なくていいです)」と言う業者は要注意です。書類の内容について事業主が把握・確認していないと、不正受給のリスクを負う可能性があります。また、成功報酬率が30%を超えるような高額報酬を提示する業者も存在します。社労士の資格を持ち、日本社会保険労務士会連合会に登録されている専門家を選ぶことが重要です。

非正規社員の正社員化助成金について、経営者・人事担当者から特によく寄せられる質問をまとめました。申請前に必ず確認してください。
非正規社員の正社員化に活用できるキャリアアップ助成金(正社員化コース)は、適切な手順を踏めば中小企業で1人当たり最大80万円(派遣からの直接雇用の場合は最大108.5万円)の支援を受けられる非常に有効な制度です。本記事で解説した内容を改めて整理します。
非正規社員の正社員化は、従業員のモチベーション向上・定着率改善・採用力強化といった経営上の多くのメリットをもたらします。助成金を賢く活用しながら、従業員と会社がともに成長できる雇用環境の整備に取り組んでいただければ幸いです。最新の制度情報は厚生労働省ウェブサイトや都道府県労働局で随時確認するようにしてください。